2013年12月21日土曜日

【翻訳】ピーター・ホーキンス - 7つの視点から見たコーチングのモデル: スーパービジョンのためのプロセスモデル(The Seven-eyed coaching model: A Process Model of Supervision by Peter Hawkins)

 The Seven-eyed coaching model: A Process Model of Supervision.

 上記の記事の筆者であるピーター・ホーキンス博士に翻訳依頼を申し出たところ、氏から翻訳許可と最新分の原稿を頂きました。 ありがとうございます。以下、用語などの説明をしたうえで、翻訳を掲載します。

■スーパービジョンとは?
 熟練者(Supervisor. 以下、スーパーバイザー)と訓練者(Supervisee. 以下、コーチ)で行う振り返りです。熟練者は、訓練者が現場でどのような実践を行ったのかを聞き、適切な指導・助言を行います。つまり、スーパーバイザーはコーチングの現場には立ち会いません。

■この記事が想定している状況は?
 熟練したコーチ(スーパーバイザー)が、訓練中のコーチに対して、2人だけでスーパービジョンを行う状況を想定しています。

■この記事で言う系とは?
 この記事における系は、ソーシャルワークの専門用語であるシステムに相当し、次の4つ(のいずれか)を指しています。
 ・ワーカーが所属する組織
 ・ワーカーが援助の対象としている系
 ・問題解決に協力してくれる系
 ・問題解決のために働きかける系


◆ここから翻訳◆

7つの視点から見たコーチングのモデル: スーパービジョンのためのプロセスモデル
ピーター・ホーキンス

 私は1980年代にスーパービジョンに関する徹底したモデルを作成しました(Hawkins and Shohet, 1989, 2nd edition 2000, 3rd edition 2006, 4th edition 2012)。このモデルは後にseven-eyed supervision modelとして知られるようになり、世界中の様々なプロフェッショナルに使われるようになりました。

 スーパービジョンにおける様々な影響について探索することが、このモデルの目的です。ものごとのつながり方、相互の関係を理解するためのシステムに基づいており、行動を促進するものです。その後、コーチも使えるようにこのモデルの作り直しを行いました(Hawkins and Smith 2006 and 2013)。このモデルは心理学的なものごとの見方や洞察と、人の内面で起こる活動を統合するためのものです。
 以下、スーパーバイザーとコーチ間のレビューにおいて、その可能性に焦点を当てるべき7つの領域について、詳細に述べていきます。

スーパービジョンを行う際には、7つの領域に焦点をあてます



1. クライアントを取り巻く環境
 クライアントと、クライアントを取り巻く系(訳注:クライアントを取り巻く環境とその構造のこと)に何が起こったのかを焦点をあてます。クライアントとその系が解決を望んでいる課題と、クライアントがどのように課題を表現しているのかを問題にします。

モード1のためのスキル
 このモードでスーパーバイザーが使用するスキルは、クライアントに対してコーチが返したものは何かを正確に伝えることです。つまり、コーチが何を見て、聞いて、感じて、やろうとしたのかということと、コーチの先入観、偏見、解釈とを区別することです。
 モード1のスキルは、コーチングが始まる瞬間と終わる瞬間、クライアントに何が起こっているのかを、コーチが知るための手助けになるかもしれません。しばしば、コーチングとそれ以外の時間の境界に、無意識下に存在する豊かな精神活動が、最も活発になることがあります。



2. コーチの介入
 コーチがどんな介入をしたのか、他にどんな代替案があったのかを見ます。コーチが介入しようとした状況、ありえる選択肢、それらがどのような影響を与えるのかについても焦点を当てます。

モード2のためのスキル
 コーチングが行き詰ったとき、コーチは(クライアントから)助けを求められることがあります。
この行き詰まりは、"あれか、これか"という形で現れることがあります。
例えば、「この状況を受け入れるべきでしょうか、それとも課題に立ち向かうべきなのでしょうか?」という形です。コーチが、"あれか、これか"についての議論という罠を回避できるようにするのも、スーパーバイザーのスキルです。
 また、コーチが2つの対立するに対する選択肢にどのような制限を設けていたのか気付いてもらうことや、力を解放したうえで新たな選択肢を作り出すため、一緒にブレインストーミングをするよう促すことも、スーパーバイザーのスキルです。
その際はロールプレイを行い、それぞれのオプションの利益と不利益を考え、どんな介入の可能性があったのか試行します。



3. コーチとクライアントの関係
 クライアントとコーチ、クライアントとコーチングの系、それぞれを単体として焦点を当てるのではなく、相互に作り出す関係性に焦点を当てます。

モード3のためのスキル
 コーチが新たな観点から見ることができるよう、コーチを関係性の外側にファシリテートする必要があります。中国には「海を発見する一番最後の存在は魚である」ということわざがあります。なぜなら魚は常に水の中にいるからです。このモードでスーパーバイザーは、コーチがトビウオになり、普段から泳いでいる水面を見ることができるよう、手助けをします。



4. コーチ
 コーチが、クライアントの何から繰り返し刺激を受けているのか、そして、コーチングの表層で起こっていることのうち何を覚えているのか、という観点から、コーチが自分自身を観察できるように焦点を当てます。

モード4のためのスキル
 このモードのスーパーバイザーは、感情 ――クライアントと協働することで、コーチの中で沸き起こる感情――の中にあっても、コーチが仕事ができるよう支援します。これができるようになったコーチは、自身の感情をとても有益なデータとして利用します。
 クライアントとそのシステムが「感じているけど直接表現できない」ことを理解するために使えるのです。クライアントの変化を促進することを妨げるような、コーチ自身の壁を探すためにも使うことができます。



5. 並行プロセス
 コーチが、クライアントの系から何を無意識に取り入れているのかと、スーパーバイザーとの関係ではどのように取り入れを行っているのかに焦点を当てます。コーチは自分でも気付かないうちに、彼らがクライアントにするかのようにスーパーバイザーと接することがあります。

モード5のためのスキル
 スーパーバイザーは、コーチングについて述べられた内容だけではなく、コーチングの関係性の中で何が起こったのかについても目を向けることができる必要があります。このスキルがあれば、コーチングに影響を与える要素に対して、コーチからは曖昧なリフレクションしか得られない場合でも、コーチングの内容をダイナミックに描き出すことができます。
 十分なスキルを持ってこのプロセスを実施すれば、コーチがクライアントとの関係について意識下で理解していることと、それが実際に感情に与えている影響とのギャップの橋渡しをすることができます。



6. スーパーバイザーのセルフリフレクション
 "いま、ここにおける"体験に焦点をあてます。コーチと、コーチが表現するものに対するスーパーバイザー自身の反応から、コーチ本人と、コーチとクライアントの関係について学ぶことができます。

モード6のスキル
 このモードでスーパーバイザーは、場にあるものと、それが"いま、ここにおける"関係に与える影響だけではなく、コーチとクライアントの内面にあるプロセスに関わります。スーパーバイザーはコーチングの状況の説明を聞き、彼らの感情、考え、気まぐれに関わることで、コーチングの際、無意識化にあったものの存在を見つけることもできます。これは、コーチとクライアントとの関係にどのような嘘がありえるのかを示す指標として、あるいは解釈するために使うことができます。
 断定的な表現をしない、推測的なコーチの話の意味を理解できるスキルも必要です。



7. より広いコンテキスト
 コーチングが行われる組織的、社会的、文化的、倫理的、契約的なコンテキストに焦点を当てます。ここには、コーチングの際に焦点を当てているより、より広範なステークホルダーも含みます。それはクライアントの所属する組織やステークホルダーかもしれないし、コーチの所属する組織やステークホルダー、スーパーバイザーの持っているネットワークや組織かもしれません。

モード7のためのスキル
 スーパーバイザーは、振る舞い、マインドセット、感情、モチベーションだけではなく、コーチとクライアント自身がシステムに対してどのように影響を与えているのかを理解できるよう、システム全体を俯瞰できないといけません。
 このスキルは、批判的なステークホルダー ――広い枠組みで見たときに存在するステークホルダー――の要請に適切に対応するためのものであり、スーパーバイザーとコーチの系というコンテキストが作り出す幻惑、思い違い、馴れ合いを理解するためのものです。
 モード7で取り組むためには、異文化への高いレベルでの適正が求められます(Hawkins and Shohet 2000の第七章を参照)。



・7つのモード全てを使う
 相互に助け合いながらスーパービジョンを行うスーパーバイザーとコーチは、彼らが上手く使える1つのモードばかり使っているということが分かりました。
クライアントを省いた全体像に焦点を当てることで、まがい物の客観性に当てはめようとする人がいました(モード1)。
 コーチを導くよりも、より良い介入の仕方を探すことが、自分の仕事だと考えている人もいました(モード2)。これでは、コーチは不十分であると感じてしまったり、(アドバイスが)役に立たないもの、あるいは既に試したものであると理解してもらわないといけない、と思わせてしまったりします。
 クライアントとの問題について話したところ、スーパービジョンにより、問題は全くコーチとクライアントの病理であるという感情を抱かされたと報告したコーチもいます(モード4)。
 "1つの視点"ではプロセスの1つの面にしか焦点を当てることができません。部分的で限られた観点しかもたらさないでしょう。このモデルが提案するのは、同じ状況を様々な観点から見つめ、そうすることで、ある観点を別の観点からテストするという、批評的な見方を作り出すことができる、そういった探求の方法です。

7つ全ての観点からスーパービジョンを行います

 スーパービジョンのそれぞれのモードは、熟練し洗練されたやり方、あるいは非効率なやり方でなされるかもしれません。しかし、どれだけ1つのスキル、モードに熟練したとしても、あるモードから別のモードに移行するスキルがなければ不十分なのです。
 我々はスキルと精密さを持ってそれぞれのモードを使えたり、妥当かつ適切なタイミングでモードを移行できるようになるためのトレーニングメソッドを開発しました。

 たいていの場合、モードの移行には共通した順序があります。
 まず、モード1でコーチングの状況について話すことからはじめます。
 それからモード3, 4に移行し、コーチとクライアントの関係、コーチとスーパーバイザーの関係に何が起こっているのかを調べます。そうすることで、コーチとスーパーバイザーの"いま、ここにおける"関係をより調べることができ(モード5, 6)、より広いコンテキストからの気付きをもたらします(モード7)。
 それから、モード2に戻るよう意識を向け、次回のコーチングに必要とされる、コーチングそれ自体の変化を作り出せるよう、コーチに可能な介入の仕方を見つけます。コーチは最終的には新しい知見を得ることができます。それは、スーパービジョンそれ自体にも変化をもたらします。コーチは素振りで介入の仕方を試すかもしれません。スーパービジョンの中で試して変化があったとしたら、それはずっと好ましい形でコーチングでも起きるであろう、ということを我々は経験から学んでいます。

 このモデルはコーチに権限を与えるために使うものでもあります。コーチはスーパービジョンを受ける存在であり、彼らが受けているスーパービジョンにフィードバックを行うことができる存在であり、焦点を当てる箇所を変えるよう要求できる存在でもあるのです。このモデルは、スーパービジョンのプロセスをジョイントレビューする際のフレームワークとして使用することが可能です。



■ピーター・ホーキンス博士の本が2冊、日本語に翻訳されています
・心理援助職のためのスーパービジョン: 効果的なスーパービジョンの受け方から,良きスーパーバイザーになるまで
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出版社のサイト
心理援助職のためのスーパービジョン
 効果的なスーパービジョンの受け方から,
 良きスーパーバイザーになるまで
 P.ホーキンズ,R.ショエット 著
 国重浩一,バーナード紫 奥村朱矢 訳
  A5判 308頁 定価3360円(本体3200円+税5%)
 ISBN978-4-7628-2782-2 C3011
援助職の専門家になるため,また日々の実務上もスーパービジョンは必須のもの。だが機会も限られ,その実態は神秘性を伴い見えづらいものとなっている。スーパービジョンにまつわる諸問題を広範囲にわたり言語化し,自身の援助行動を適切に振り返り,客観性や妥当性を備えたものとしていくためのノウハウを体系的に整理。

・チームコーチング――集団の知恵と力を引き出す技術
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出版社のサイト
著者         :        ピーター・ホーキンズ
訳者         :        佐藤志緒
監訳         :        田近秀敏
A5判 上製 392ページ 本体2,800円+税 2012年4月発行
ISBN10: 4-86276-129-1 ISBN13: 978-4-86276-129-3
今、求められているのは、「個人という枠を超越したリーダーシップ
――より効果的な集団的リーダーシップと高業績を上げるチーム」である。
コーチングは「個人」から「チーム」の時代へ。日本で初めての「チームコーチング」の教科書が誕生。
組織に働きかけ、チームを変革していく「チームコーチ」の定義、その支援のプロセスを詳説した本書は、コンサルタント・プロコーチ・人事担当者・エグゼクティブのための新スキルとなる1冊。
監訳者あとがきでは、キリンビールにおけるチームコーチングの実践事例を収録。
チェック表・質問票などの実践ツールも多数収録


著者: ピーターホーキンス博士
連絡先: peter.hawkins<at>renewalassociates.co.uk
このモデルを使ったスーパービジョンについて指導を受けたい場合、www.bathconsultancygroup.comにアクセスしてください。

◆ここまで翻訳◆





ピーターホーキンス博士、ありがとうございました。