2013年8月8日木曜日

「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」その2

 2013/08/06に開催された「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」のノートその2です。その3まで続く予定です。

その1


◆認知性(分かりやすさ)と拡張の話

■人間の願望
・「現実世界を拡張したい」という願望
 →これはかなえられない願望
・でも、「人間の認知を強化したり、支援する」というのがある
 →空間的な定位(どこにいるか)に関する支援
 →時間的な定位(過去・現在・未来)への支援
 →対象の把握への支援

■こういった願望は昔からあった
・ネットで探してきて見つけた
 →昭和の透視メガネ
 →明治時代のX光線機
 →ワンダーチューブという道具。そこから除くと透けて見えるという…
・人間には「認知(我々が見ているもの)を異常に強化したい」という願望がある?

■それが古来から実現されていた1つの例 = 地図
・人間はある場所にいる
 →そこから見える景色というのは一様
・視点を変えれば、移動すれば違ってくる
 →でもそれだけでは、「自分がどこにいて、どこに向かって歩けばいいか」は分からない
 →そこで地図
・人間は昔から地図を作ってきたという歴史がある
 →認知を拡張したがっているという歴史

■地図にはある種の理想化がある
・我々にも理想化という仕組みがある
 →理想的に簡素・簡略化するという傾向がある
・路線図の山手線は真円のような形
 →実際には縦長
・都営地下鉄の大江戸線を中心にした路線図
 →まるで、他社の路線が大江戸線に従っているように作ってある



◆情報の簡素・簡略化とデザイナーの関係

■デザイナーはより情報の簡素・簡略化を行う(傾向がある)
・デフォルメされた道路図
 →その地図を指して「xxで事故がありました」と言われても、実際の地図のどこに相当するのか分からない
 →→デフォルメした見た目がよくても意外と不便
・天気予報の日本地図もそう
 →とてもデフォルメされている
・誰かが簡略化したものなのだが、とても使いにくい…
 →でも一向に改善されない

■デザイナーの嗜好
・デザイナーが作った地図(会社の案内図など)
 →道がまっすぐなものがとても多い
・google mapの地図と比べると?
 →デザイナーの地図では直線として表されているものが、折れていたり曲がっていたりする
 →→google mapは地理的により正確な地図
・デザイナーは直行と直線が好き
 →この2つの原理を使うだけで、かなり歪んだ地図を作ることができる

■2つの地図を使った実験
・1人はデザイナーの作った地図、1人はgoogle mapの地図
 →同時に歩かせると、どちらが先に着く?
 →→実際の地形に近い地図を持っている方が早く着く
・デザイナーには反省してもらわないといけない
 →「自分なりの意匠を(無理してでも)考えないといけないと思っているのだろうか?」



◆拡張した認知と自己位置

■シンガポールの路線図
・路線図上はまっすぐ
 →でも実際にはまっすぐではない
 →→(でもこれはスペースファクターで描けないだけかもしれない)
・電車なら、概念的には近づいていることだけ分かればいい
 →電車に乗っているとき、その道がうねっているかなんて気にしない
 →→山手線だって初めて乗る人は直線だと思うかもしれない
・そういう意味では、必ず現実に忠実である必要はないかもしれない

■バスの接近表示
・バスがどの辺りにいるか分かる
 →何駅前にいるか…どのくらいの時間で来るか、という計算ができる
・飛行機もそう
 →飛行機の高度や残り時間の表示
 →→それを見るのが好き
・でも、これを見ている人は意外と少ない
 →みんな自分のいる位置が気にならないということ?
 →→人間は自分の位置を知りたがるが、そういう面もある

■自己位置 : 俯瞰
・飛行機が地上に近づいて行く
 →立体交差などが上から見える
・立体交差にいる車
 →「自分はどこにいる?どこに合流しようとする?」
 →→地図を見てその通りに走って目的地にたどり着く
・でも、全体を俯瞰できれば現在の位置はとても分かりやすい
 →飛行機に乗っているときのように見えれば…
・この特性を使ったカーナビもある
 →鳥瞰図と平面図を一緒に表示している
・では鳥瞰図はどれくらい分かりやすい?
 →雰囲気としては分かりやすい
 →→どこをどう曲がるかは平面地図の方が分かりやすい
・でも鳥瞰図は分かりやすい気がする
 →不思議なもの

■自己位置 : 平面
・カーナビの2つのモード
 →北が常に上「North Up」
 →進行方向が常に上「Head Up」
・North Upの地図で南にいくと…
 →上下が逆なので、右折や左折するとき分かりにくい
 →→頭の中で変換する操作が必要になる
・最近のカーナビはHead Upがデフォルト
 →そういうケースが圧倒的に多い
・でもHead Upが万能なわけでもない
 →こちらは東西南北が分かりにくい

■電車を降りて、出口へ出たいとき
・「どの階段、どのエスカレータを辿れば出口に出られる?」
 →立体表示だと比較的分かりやすい
 →→案内表示だけだと延々歩かされているような気がする
・でも、渋谷駅は…
 →とても複雑な立体表示
 →→これを見て自分の行きたいところが分かる人はいない
・役に立つとは到底思えない
 →いつでも立体で良いわけではない



◆人間は認知的なマップを作りたがる

■ナビゲーション問題
・人はルートをどう考えるか
 1. 自分はどこにいる?
 2. 自分はどちらを向いている?
 3. 目標の向きは?
・サイン計画
 →実は、「人がルートをどう考えるか」には関係なく、目標にはたどり着ける
 →→サイン計画さえしっかりしていれば、たどり着くことができる
 →位置も向きも分からなくても、サイン計画さえあれば良いということ
・「でも、それだけでいいの?」という話
 →人間は環境の認知図(認知的なマップ)を作りたがる
 →→「それを考えず、目標だけというのはどうだろう?」という話
・それに、行動バリエーションが増えたら?
 →トイレに行って出てきたとする
 →→サイン計画しか知らない人は「さて… どこに行けばいいのか?」

■「分かりやすい認知図を作るためのインタフェースはないのだろうか?」
・ウェブではどう実現している?
 →パンくずリスト
 →グローバルナビゲーション
・ウェブには便利なものがある
 →「でもこれを現実世界で実現できるのか?」という話



◆エンジニアリングは認知をどう拡張するか

■どうやって時間、地理的、空間的な定位を拡張する?
・エンジニアがいろいろ考えている
 →見えているものにそのまま情報を追加する
・拡張現実(AR), HUD
 →仮想のコンピュータが生成した画像を実際に見ているものに重ねて表示しようとする技術
・カメラを向けると、それの情報(物件の値段やお店の場所)が表示される
 →それによってある程度現実を拡張することができる



◆人間中心設計とどう関係するのか

■このような認知性も、人間中心設計の目標
・分かりやすい(認知性)が高い人工物はユーザビリティを高める
 →でもユーザビリティは独立変数の1つ
・ユーザビリティだけではUXは高まらない
 →ユーザビリティはUXに貢献できるだけ

■では、経験工学ではどうか?
・人間工学におけるテイラーイズムほど単純ではない形でやりたい
 →「満足度の高い環境やシステムを作れないか?」
 →→これを経験工学の1つの目標にしたいと考えている

(続きます)






黒須 正明様、佐々木 正人様、ジュンク堂書店様、ありがとうございました。

2013年8月7日水曜日

「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」 その1

 2013/08/06に開催された「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」のノートその1です。その3まで続く予定です。



◆『人間中心設計の基礎(HCDライブラリー第1巻)』の勘所

■本の執筆趣旨
・大学院修士・企業の方を対象にした教科書
・網羅的で自分の主張はない(抑えた)
・バイアスがないので安心して読んでもらえる

■どんな本か?
・基本は人間中心設計の本

■人間中心設計とは?
・人間の特性や利用状況、環境や生態に適合した人工物を設計するためのもの
・元々は人間工学の考えから入ってきているもの
 →物理的な環境(温度、湿度、照明)も重視している
・でもそれだけではない
 →社会的、心理的環境も含めて考えている
・人間的な特性も入っている
 →心理的な特性、性格的な特性、価値観などなど
 →エルゴノミクス的なものだけではない
・他にも人間の特性には色々ある
 →身体
 →認知
 →不自由など
 →→これらも入っている
・利用状況
 →状況に応じて使うものが違う
 →→座っている / 立っている
 →→屋内 / 屋外
 →→通常時 / 緊急時
 →状況を考えようということ

■人間中心設計の反対にあるもの = 技術中心設計
・「技術があるから」「性能が向上したから」という理由で作ってしまうもの
・具体例 : 三次元テレビ
 →昔から技術はあった
 →→心理学の両眼視差で作ればよいというのも分かっていた
 →でも、輻輳や調節という眼球の生理的手がかりを無視している
 →→見ていると疲れる
 →だから流行らない
・三次元テレビは以前にも流行りかけたことがある
 →でも駄目だった
 →→また諦めずに技術者はやってしまう
 →→→そして流行らなかった
・具体例 : 最近の掃除ロボット
 →フローリングでさーっと綺麗になっている部屋なら掃除できる
 →→そんな部屋、実際にどのくらいあるかは分からない
 →→→でも、そういう所でしか使えない
 →座布団の上にあるおせんべいのこぼれかす
 →→このロボットに拾える?
 →面白いけどこのロボットも技術中心設計だと思う


◆ユーザビリティとは何か

■概要
・人工物が備えるべき性質
 →生身の人間ではできないことを人工物で支援しようということ
・2つのファクターがある

■1つ目のファクター : 有効さ
・やりたいことができること
 →やりたいことがあり、やりとげたいのが人間
・寝返りのような意識的ではない行動は除外される

■2つめのファクター : 効率
・時間が短い = 効率がよいということ
・でも時間が短いことだけではない
 →身体的リソース(披露)も関係してくる

■初期状態から目標状態へ
・最初は初期状態
 →目的が達成されていない状況
・そこから目標状態に向かっていく
 →この2つの状態の距離をどうやって埋めていくか
・うまくいかない、途中で諦める
 →無効
・なんとかたどり着く
 →有効
 →→非効率でもたどり着けるなら有効だということ
・効率 = 有効な形で目標に到達できて、しかも短時間リソースを使わないで出来ること
 →お金、時間、披露をかけないでできること

■有効さの点でユーザビリティが低い例 : windows95, 98 
・意味の分からないエラーメッセージ
 →「karnel32.exe」ってなに?
 →「一般保護違反」ってなに?
 →「閉じる」ボタンは分かる
・人間には「閉じる」しか分からない
 →意味が分からなくてもボタンを押すしかない
 →→でも、それって意味ないでしょう?

■効率の点でユーザビリティが低い例 : amazon
・本を買おうとすると、少なくとも5手順は必要
 →手数がかかる
・ワンクリックという仕組みがある
 →誤購入とかはあるけど、こちらはとにかく便利(ここでいう便利さ = 効率)



◆ユーザビリティ以外にもUX(ユーザエクスペリエンス)という概念が出てきた

■ユーザビリティは品質の特性
・ユーザビリティはモノの特性
 →それを幾ら良くしてもユーザが満足するとは限らない
・『ユーザの満足』はもっと広い概念
 →ユーザビリティだけよくしてもデザインが悪いと嫌われるということ

■品質と満足感の関係性
・ユーザビリティで言うところの品質 = モノの側面の話
 →UXから見たら独立変数の1つ
 →因果関係なら原因の1つ
・満足感 = 人の話
 →従属変数
 →因果関係では結果の方

■ユーザビリティからUXへのシフト
・2000年代前半まで
 →ものを作っている人の関心 = モノをよくする
 →古典的
・2000年代広範 ~ 現代
 →受け取った人がどう感じるかを考え、それを良くしないといけない
・このようにシフトしてきている

■UXにおける事前、最中、事後
・この3つがとても大事になってくる
・事前 : 満足感は使っているときだけのものではない
 →期待感 = 実際には存在しない経験
 →でも一種の経験
 →→「こういうものがあったら嬉しい」
 →→「こういうものを使ってみたい」
 →マーケティングの人達が力を入れているところ
・最中 : 実際に使ってみて満足するか
・事後 : 長い間使っていて満足できること
 →『最中 : 使ってみて満足する』とは違うことが多い
 →買ってみてはすぐ良いと思うけど、面倒になって使わなくなってしまったりとか
 →家に持って帰って寝るとき使おうと思ったけど、音がうるさくて嫌だとか

■ユーザビリティからUXへ
・一気に広い観点で捉えないといけなくなっている



◆UXとCX(カスタマーエクスペリエンス)

■UXをCXという人もいる … どう区別する?
・モノを買うまではカスタマー
 →これは従来のアプローチ
 →→マーケティングなら買ってもらうまでが指標になる
・使い始めたらユーザー
・『買うこと』を境にして2つのフェーズに分かれるということ
 →買うという視点(カスタマー)
 →利用するという視点(ユーザー)



◆サービスについて

■製品とサービスの違い
・製品はuseするもの
・サービスはreceiveするもの

■サービスについて
・コーリン・クラークが1941年にサービス産業を位置づけた
・サービスの大きな特徴
 →サービス産業とサービス活動は別
・サービス活動はサービス産業の中にだけあるのではない
 →第一次産業、第二次産業にもサービス活動はあるということ
・製品の使い方が分からなければコールセンターに問い合わせる
 →これもサービス
・第一次産業、第二次産業でもサービスは重要なファクターであるということ
 →だからHCDで取り扱わないといけない

■サービスでも環境設定などが必要になる
・店員が笑顔で「おいしい?」と聞いてくる
 →これもサービスの一環
・でも、食器、食堂という環境設定がなかったら?砂漠の真ん中だったら?
 →あまり意味がない
・声かけはレストランという環境において始めて意味を持ってくる活動だということ
 →サービス活動にも第二次産業が生み出す製品が関係してくる



◆設計と経験のプロセスを考える

■市場と企業
1. 市場
 →ユーザーには不満、足りないという意識がある
 →→これがニーズやモチベーションになる
2. HCDでは、それをできるだけ現場(フィールドサーベイ)して集める
 →マネジメントサイドが「その方向で行く」と決定して設計プロセスのスタート
3. そこから設計されるとイメージや文章、数値などの情報が出てくる
 →それが企業の情報になる
 →→情報はテレビ、広告、記事、SNSなどに載る
4. そしてユーザーに入る
 →市場(ユーザー)に入る
5. ユーザー彼らは色々ものを探している
 →情報の中から「良さそうだ」という仮説を構築する
 →そして使ってみる(仮説検証)
6. それに並行して企業では製造、広告を行う
 →ユーザは販売されているものを買う

■経験・記憶
・買って使ったら短期的な経験になる
 →それは記憶に残る(記憶という言葉が心理学っぽい)
・長期的な経験も記憶に残る
 →「新しい機能の使い方が分からない…」
 →→電話でコール使い方を聞く
 →→→これ自体が長期的な経験になる
・販売やサポートで製品に関する活動が行われ、それが長期的な経験(記憶)として残る

■ユーザーはいずれ飽きたり不満足になる
・そのとき、使用を取りやめる
 →そしてイメージが残る
・「手足がもげた熊のぬいぐるみ」
 →直して使ったりして、それも印象に残る
 →→そういう製品がそれだけある?
・製品は初期の目標が達成できなくなったり、より良いものが出ると捨てられる
 →そういう最終的な印象も記憶に残る
・『その記憶が新製品の情報と組み合わさって仮説の構築に至る』という流れがあるのではないか?



◆経験工学について

■経験工学って?
・黒須氏が考えているもの
 →製品とサービスを扱うもの
・なんでサービスが入ってくるのか?
 →HCDはISOで規格化されているが、そこで製品だけでなくサービスもやらないといけないとされているのが発端

■UXという言い方は不十分?
・だが、CXというのも逆にユーザが入ってなくて不十分
 →だから経験工学

■経験を考える上での三つの要素
・品質特性
・感性特性
・意味性

■品質特性
・ユーザビリティ
 →1990年代から2000年代始めに盛んになったユーザビリティ工学という分野
・信頼性
 →故障しないこと
・安全性
 →火を噴いたりしないこと

■感性特性
・UX的に考えるとこういうものが入ってくる
・チクセントミハイのフローとか
 →心地よく使える状態
・使う能力やチャレンジングレベル、使い心地で決まる
・感性工学が(全てではないけど)やってきたこと


■意味性
・目的適合性、ありがたさといったものを加えたもの
・例 : 三次元テレビ
 →あればありがたい
 →でも、あるべき形になっていないという問題がある
・例 : DVDにそのまま書き込めるビデオカメラ
 →HDDカメラの登場で一瞬で消えた
 →→これも本当に意味があった?

■UXデザインと経験工学の違い
・品質特性、感性特性までを取り扱うのがUXデザイン
・意味特性まで取り扱うのが経験工学







黒須 正明様、佐々木 正人様、ジュンク堂書店様、ありがとうございました。