2013年12月21日土曜日

【翻訳】ピーター・ホーキンス - 7つの視点から見たコーチングのモデル: スーパービジョンのためのプロセスモデル(The Seven-eyed coaching model: A Process Model of Supervision by Peter Hawkins)

 The Seven-eyed coaching model: A Process Model of Supervision.

 上記の記事の筆者であるピーター・ホーキンス博士に翻訳依頼を申し出たところ、氏から翻訳許可と最新分の原稿を頂きました。 ありがとうございます。以下、用語などの説明をしたうえで、翻訳を掲載します。

■スーパービジョンとは?
 熟練者(Supervisor. 以下、スーパーバイザー)と訓練者(Supervisee. 以下、コーチ)で行う振り返りです。熟練者は、訓練者が現場でどのような実践を行ったのかを聞き、適切な指導・助言を行います。つまり、スーパーバイザーはコーチングの現場には立ち会いません。

■この記事が想定している状況は?
 熟練したコーチ(スーパーバイザー)が、訓練中のコーチに対して、2人だけでスーパービジョンを行う状況を想定しています。

■この記事で言う系とは?
 この記事における系は、ソーシャルワークの専門用語であるシステムに相当し、次の4つ(のいずれか)を指しています。
 ・ワーカーが所属する組織
 ・ワーカーが援助の対象としている系
 ・問題解決に協力してくれる系
 ・問題解決のために働きかける系


◆ここから翻訳◆

7つの視点から見たコーチングのモデル: スーパービジョンのためのプロセスモデル
ピーター・ホーキンス

 私は1980年代にスーパービジョンに関する徹底したモデルを作成しました(Hawkins and Shohet, 1989, 2nd edition 2000, 3rd edition 2006, 4th edition 2012)。このモデルは後にseven-eyed supervision modelとして知られるようになり、世界中の様々なプロフェッショナルに使われるようになりました。

 スーパービジョンにおける様々な影響について探索することが、このモデルの目的です。ものごとのつながり方、相互の関係を理解するためのシステムに基づいており、行動を促進するものです。その後、コーチも使えるようにこのモデルの作り直しを行いました(Hawkins and Smith 2006 and 2013)。このモデルは心理学的なものごとの見方や洞察と、人の内面で起こる活動を統合するためのものです。
 以下、スーパーバイザーとコーチ間のレビューにおいて、その可能性に焦点を当てるべき7つの領域について、詳細に述べていきます。

スーパービジョンを行う際には、7つの領域に焦点をあてます



1. クライアントを取り巻く環境
 クライアントと、クライアントを取り巻く系(訳注:クライアントを取り巻く環境とその構造のこと)に何が起こったのかを焦点をあてます。クライアントとその系が解決を望んでいる課題と、クライアントがどのように課題を表現しているのかを問題にします。

モード1のためのスキル
 このモードでスーパーバイザーが使用するスキルは、クライアントに対してコーチが返したものは何かを正確に伝えることです。つまり、コーチが何を見て、聞いて、感じて、やろうとしたのかということと、コーチの先入観、偏見、解釈とを区別することです。
 モード1のスキルは、コーチングが始まる瞬間と終わる瞬間、クライアントに何が起こっているのかを、コーチが知るための手助けになるかもしれません。しばしば、コーチングとそれ以外の時間の境界に、無意識下に存在する豊かな精神活動が、最も活発になることがあります。



2. コーチの介入
 コーチがどんな介入をしたのか、他にどんな代替案があったのかを見ます。コーチが介入しようとした状況、ありえる選択肢、それらがどのような影響を与えるのかについても焦点を当てます。

モード2のためのスキル
 コーチングが行き詰ったとき、コーチは(クライアントから)助けを求められることがあります。
この行き詰まりは、"あれか、これか"という形で現れることがあります。
例えば、「この状況を受け入れるべきでしょうか、それとも課題に立ち向かうべきなのでしょうか?」という形です。コーチが、"あれか、これか"についての議論という罠を回避できるようにするのも、スーパーバイザーのスキルです。
 また、コーチが2つの対立するに対する選択肢にどのような制限を設けていたのか気付いてもらうことや、力を解放したうえで新たな選択肢を作り出すため、一緒にブレインストーミングをするよう促すことも、スーパーバイザーのスキルです。
その際はロールプレイを行い、それぞれのオプションの利益と不利益を考え、どんな介入の可能性があったのか試行します。



3. コーチとクライアントの関係
 クライアントとコーチ、クライアントとコーチングの系、それぞれを単体として焦点を当てるのではなく、相互に作り出す関係性に焦点を当てます。

モード3のためのスキル
 コーチが新たな観点から見ることができるよう、コーチを関係性の外側にファシリテートする必要があります。中国には「海を発見する一番最後の存在は魚である」ということわざがあります。なぜなら魚は常に水の中にいるからです。このモードでスーパーバイザーは、コーチがトビウオになり、普段から泳いでいる水面を見ることができるよう、手助けをします。



4. コーチ
 コーチが、クライアントの何から繰り返し刺激を受けているのか、そして、コーチングの表層で起こっていることのうち何を覚えているのか、という観点から、コーチが自分自身を観察できるように焦点を当てます。

モード4のためのスキル
 このモードのスーパーバイザーは、感情 ――クライアントと協働することで、コーチの中で沸き起こる感情――の中にあっても、コーチが仕事ができるよう支援します。これができるようになったコーチは、自身の感情をとても有益なデータとして利用します。
 クライアントとそのシステムが「感じているけど直接表現できない」ことを理解するために使えるのです。クライアントの変化を促進することを妨げるような、コーチ自身の壁を探すためにも使うことができます。



5. 並行プロセス
 コーチが、クライアントの系から何を無意識に取り入れているのかと、スーパーバイザーとの関係ではどのように取り入れを行っているのかに焦点を当てます。コーチは自分でも気付かないうちに、彼らがクライアントにするかのようにスーパーバイザーと接することがあります。

モード5のためのスキル
 スーパーバイザーは、コーチングについて述べられた内容だけではなく、コーチングの関係性の中で何が起こったのかについても目を向けることができる必要があります。このスキルがあれば、コーチングに影響を与える要素に対して、コーチからは曖昧なリフレクションしか得られない場合でも、コーチングの内容をダイナミックに描き出すことができます。
 十分なスキルを持ってこのプロセスを実施すれば、コーチがクライアントとの関係について意識下で理解していることと、それが実際に感情に与えている影響とのギャップの橋渡しをすることができます。



6. スーパーバイザーのセルフリフレクション
 "いま、ここにおける"体験に焦点をあてます。コーチと、コーチが表現するものに対するスーパーバイザー自身の反応から、コーチ本人と、コーチとクライアントの関係について学ぶことができます。

モード6のスキル
 このモードでスーパーバイザーは、場にあるものと、それが"いま、ここにおける"関係に与える影響だけではなく、コーチとクライアントの内面にあるプロセスに関わります。スーパーバイザーはコーチングの状況の説明を聞き、彼らの感情、考え、気まぐれに関わることで、コーチングの際、無意識化にあったものの存在を見つけることもできます。これは、コーチとクライアントとの関係にどのような嘘がありえるのかを示す指標として、あるいは解釈するために使うことができます。
 断定的な表現をしない、推測的なコーチの話の意味を理解できるスキルも必要です。



7. より広いコンテキスト
 コーチングが行われる組織的、社会的、文化的、倫理的、契約的なコンテキストに焦点を当てます。ここには、コーチングの際に焦点を当てているより、より広範なステークホルダーも含みます。それはクライアントの所属する組織やステークホルダーかもしれないし、コーチの所属する組織やステークホルダー、スーパーバイザーの持っているネットワークや組織かもしれません。

モード7のためのスキル
 スーパーバイザーは、振る舞い、マインドセット、感情、モチベーションだけではなく、コーチとクライアント自身がシステムに対してどのように影響を与えているのかを理解できるよう、システム全体を俯瞰できないといけません。
 このスキルは、批判的なステークホルダー ――広い枠組みで見たときに存在するステークホルダー――の要請に適切に対応するためのものであり、スーパーバイザーとコーチの系というコンテキストが作り出す幻惑、思い違い、馴れ合いを理解するためのものです。
 モード7で取り組むためには、異文化への高いレベルでの適正が求められます(Hawkins and Shohet 2000の第七章を参照)。



・7つのモード全てを使う
 相互に助け合いながらスーパービジョンを行うスーパーバイザーとコーチは、彼らが上手く使える1つのモードばかり使っているということが分かりました。
クライアントを省いた全体像に焦点を当てることで、まがい物の客観性に当てはめようとする人がいました(モード1)。
 コーチを導くよりも、より良い介入の仕方を探すことが、自分の仕事だと考えている人もいました(モード2)。これでは、コーチは不十分であると感じてしまったり、(アドバイスが)役に立たないもの、あるいは既に試したものであると理解してもらわないといけない、と思わせてしまったりします。
 クライアントとの問題について話したところ、スーパービジョンにより、問題は全くコーチとクライアントの病理であるという感情を抱かされたと報告したコーチもいます(モード4)。
 "1つの視点"ではプロセスの1つの面にしか焦点を当てることができません。部分的で限られた観点しかもたらさないでしょう。このモデルが提案するのは、同じ状況を様々な観点から見つめ、そうすることで、ある観点を別の観点からテストするという、批評的な見方を作り出すことができる、そういった探求の方法です。

7つ全ての観点からスーパービジョンを行います

 スーパービジョンのそれぞれのモードは、熟練し洗練されたやり方、あるいは非効率なやり方でなされるかもしれません。しかし、どれだけ1つのスキル、モードに熟練したとしても、あるモードから別のモードに移行するスキルがなければ不十分なのです。
 我々はスキルと精密さを持ってそれぞれのモードを使えたり、妥当かつ適切なタイミングでモードを移行できるようになるためのトレーニングメソッドを開発しました。

 たいていの場合、モードの移行には共通した順序があります。
 まず、モード1でコーチングの状況について話すことからはじめます。
 それからモード3, 4に移行し、コーチとクライアントの関係、コーチとスーパーバイザーの関係に何が起こっているのかを調べます。そうすることで、コーチとスーパーバイザーの"いま、ここにおける"関係をより調べることができ(モード5, 6)、より広いコンテキストからの気付きをもたらします(モード7)。
 それから、モード2に戻るよう意識を向け、次回のコーチングに必要とされる、コーチングそれ自体の変化を作り出せるよう、コーチに可能な介入の仕方を見つけます。コーチは最終的には新しい知見を得ることができます。それは、スーパービジョンそれ自体にも変化をもたらします。コーチは素振りで介入の仕方を試すかもしれません。スーパービジョンの中で試して変化があったとしたら、それはずっと好ましい形でコーチングでも起きるであろう、ということを我々は経験から学んでいます。

 このモデルはコーチに権限を与えるために使うものでもあります。コーチはスーパービジョンを受ける存在であり、彼らが受けているスーパービジョンにフィードバックを行うことができる存在であり、焦点を当てる箇所を変えるよう要求できる存在でもあるのです。このモデルは、スーパービジョンのプロセスをジョイントレビューする際のフレームワークとして使用することが可能です。



■ピーター・ホーキンス博士の本が2冊、日本語に翻訳されています
・心理援助職のためのスーパービジョン: 効果的なスーパービジョンの受け方から,良きスーパーバイザーになるまで
amazon
出版社のサイト
心理援助職のためのスーパービジョン
 効果的なスーパービジョンの受け方から,
 良きスーパーバイザーになるまで
 P.ホーキンズ,R.ショエット 著
 国重浩一,バーナード紫 奥村朱矢 訳
  A5判 308頁 定価3360円(本体3200円+税5%)
 ISBN978-4-7628-2782-2 C3011
援助職の専門家になるため,また日々の実務上もスーパービジョンは必須のもの。だが機会も限られ,その実態は神秘性を伴い見えづらいものとなっている。スーパービジョンにまつわる諸問題を広範囲にわたり言語化し,自身の援助行動を適切に振り返り,客観性や妥当性を備えたものとしていくためのノウハウを体系的に整理。

・チームコーチング――集団の知恵と力を引き出す技術
amazon
出版社のサイト
著者         :        ピーター・ホーキンズ
訳者         :        佐藤志緒
監訳         :        田近秀敏
A5判 上製 392ページ 本体2,800円+税 2012年4月発行
ISBN10: 4-86276-129-1 ISBN13: 978-4-86276-129-3
今、求められているのは、「個人という枠を超越したリーダーシップ
――より効果的な集団的リーダーシップと高業績を上げるチーム」である。
コーチングは「個人」から「チーム」の時代へ。日本で初めての「チームコーチング」の教科書が誕生。
組織に働きかけ、チームを変革していく「チームコーチ」の定義、その支援のプロセスを詳説した本書は、コンサルタント・プロコーチ・人事担当者・エグゼクティブのための新スキルとなる1冊。
監訳者あとがきでは、キリンビールにおけるチームコーチングの実践事例を収録。
チェック表・質問票などの実践ツールも多数収録


著者: ピーターホーキンス博士
連絡先: peter.hawkins<at>renewalassociates.co.uk
このモデルを使ったスーパービジョンについて指導を受けたい場合、www.bathconsultancygroup.comにアクセスしてください。

◆ここまで翻訳◆





ピーターホーキンス博士、ありがとうございました。

2013年11月29日金曜日

【DevLOVE Advent Calendar 2013】現場は続くよどこまでも (I've been working on the Sourcecode)


DevLOVE Advent Calendarの18 20日目の記事です



以前、働いていた職場で、次のように言われたことがあります。

「仕事のことは現場にいる間だけ考えていればよい。こちらが必要だと思ったことは研修やOJTで教えるから、あなたは勝手に本を買って学ぶ必要もない。それに、こちらが指示していないことはやらなくてよい。家に帰ったら仕事のことは一切考えなくていいし、考えるべきではない」

当時の私は、仕事が終わった後に勉強会やイベント、あるいは書籍を読むなどして学び、それを現場に活かすべく行動していました(今でもそうです)。

上記の言葉は、そのことを知っている当時の上司が私にかけたもので、仕事場にいる時間以外は仕事と関係ないという考え方です。

このことについて書いていきます。



線路は続くよ

突然ですが、『線路は続くよどこまでも』という有名な曲があります。皆様も小学校の頃に歌ったことがあるのではないでしょうか。歌詞は次のようになっています。

線路は続くよ

    線路は続くよ どこまでも
    野をこえ 山こえ 谷こえて
    はるかな町まで ぼくたちの
    たのしい旅の夢 つないでる

非常に前向きで明るい歌詞ですね。

でもこれは原曲の歌詞とは全く異なるのです。



仕事は続くよ

『線路は続くよどこまでも』の原曲の歌詞は次のようになります。

I've Been Working on the Railroad
俺は線路で働いている 

    I've been working on the railroad
    All the livelong day
    I've been working on the railroad
    Just to pass the time away

    俺は線路で働いている
    まる一日中だ
    俺は線路で働いている
    あっという間に時間が過ぎてゆく
※『線路は続くよどこまでも - Wikipedia』から引用

『俺は線路で働いている』… これは驚きです。我々が歌っていたものとは真逆の歌詞になっています。続いているのは線路ではなくて仕事だし、後ろ向きで暗くなるような歌詞です。



この違いは何?

実は、最初の歌詞は、この曲がみんなのうたで使われる際に新規に作られた歌詞なのです。みんなのうたは子供向けの番組なので、原曲の歌詞が持っているブラックな要素は使いにくかったのかもしれません。だから、線路というキーワードだけ残し、後は別のものに置き換えたのかもしれません。

また、歌詞を読み直してみると… どちらも線路について書いてあるのは同じなのですが、その目線が違う感じがしませんか? みんなのうたの歌詞は線路を"使うこと"の楽しさを描いていて、原曲の歌詞は線路を"作ること"の辛さが描いてあるのです。

個人的には、みんなのうたの歌詞は乗客の観点から書いたもので、原曲の歌詞は作業者の観点から書いたものなのかなあ、と思いってます。



現場につなげる

物事には、様々な側面があります。2つの『線路は続くよどこまでも』もそうです。利用者なのか、作成者なのか、それだけでここまで表現やメッセージが違ってくるのです。

現場という言葉が何を指すのかも同じだと思います。

私は、『現場以外で仕事のことを考えるな』と言われたときに、よく意味が分かりませんでした。「そんなことやっていたら、仕事できるわけないじゃないですか」と思ったからです。物事を『仕事かそうでないか』という側面だけで捉えることが果たして可能なのでしょうか? 仕事が、その仕事場だけで完結するなんてことが果たしてありえるのでしょうか?

私はありえないと思います。

それは、『仕事に必要な知識が全て、その仕事や現場の中に含まれているとは限らない』からです。



仕事に必要な知識の全てが、現場にあるとは限らない

目の前の現場にある仕事のやり方が完璧であることは(ほとんど)ありません。大体の場合、うまくいっていないところや危なかっしいところ、それなりだけどもっと良くできるところがあります。

それらは、気が付くことと、改善案の実現能力さえあれば、改善することができますが… 実際に良くするためには、現場のやり方・ものの見方だけでは足りない場合がほとんどです(現場にあるやり方・ものの見方で改善できるのであれば、とっくに改善されています)。

また、今あるものが完璧ではないことに気づくスキルも必要になります。別の観点から見てみたり、もっと優れたやり方と比較してみたり、そういうことをして初めてわかる課題や改善点もあるのです。

だから、現場以外での学びが必要になるのです。



現場は続くよ

一方で、座学や勉強会で知識を獲得することは、実践で学ぶことに比べると、軽視される傾向があります。「理論は実践と違う」「現場では使い物にならない」「それはうちのやり方には合わない」、あるいは『現場以外で仕事のことを考えるな』など… いろいろな言い方がありますが、現場と明確に区別して、その意義を否定されることもあると思います。

でも本当にそうなのかだろうかと思います。『実践でどう使うか』を念頭に学び、時間を費やし、学びを現場に持ち込むことができたのであれば、それは現場に交わりあって続いていく有意義な時間なのではないかと思います。

あるいは日常生活だってそうなのかもしれません。ふとした瞬間に課題の解決策を思いついたり、他愛のない雑談の中に鋭いヒントが混ざっていたり、たまたま読んだ本に答えが書いてあったり… 日々の生活の中から、仕事に結びつくようなアイデアを見つけることもあると思います。であれば、それはつまり『現場はどこまでも続いている』ということなのではないでしょうか? だとしたら、現場・仕事とそれ以外を明確に区別することに果たして意味はあるのでしょうか?



自己紹介

@mocha_cocoa

モデリングをこよなく愛し(UMTP-L3, Ocup-Advanced)、アジャイルなソフトウェア開発プロセスを好んで使用し(Certified ScrumMaster, Certified Scrum Product Owner)、チームや人に関心がある(Co-Active Coaching Fundamentals)、エンジニアです。




次の人へ


S-Kic(キク)さんですね。いろいろな勉強会でお会いしています!

2013年11月6日水曜日

『アジャイルサムライ横浜道場 特別編 「見せて貰おうか、KPTの性能とやらを・・・。」~KPTの基本と、その活用法~』ノート


2013//11/05に行われた『アジャイルサムライ横浜道場 特別編 「見せて貰おうか、KPTの性能とやらを・・・。」~KPTの基本と、その活用法~』のノートです。



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KPTについて
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■KPTとは?
・以下の観点から意見を出すフレームワーク
 →Keep
 →Problem
 →Try

・日本語訳に訳すとしたら?
 なんでもよい
・振り返りのときに使うと有効
 もちろんそれ以外でも使える


■歴史

・アリスター・コーバーンが日本に紹介
 来日時のイベントで始めて使用した

■どんなものか

・分かってくると便利なもの
 どこでも使える
・何かやって、やりっぱなしのとき…
 「よくない」と大体は思う
 →そういう時使うと効果が高い



KPTの例

左上がKeepで、左下がProblem。右半分は全てTry。


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KPTの使い方
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■KPT使い始めの人は…
 左から始めていくのがおすすめ

■何を書くか
・keep
 続けたいこと
・Problem
 不満や問題があったら
・Try
 Keepを強化するもの
 Problemに効くもの

 Keep, Problemに関係なく、工夫したいこと

■KPTのステップ
1. まず個々人の意見を出してみる
2. 全体で話をして、さらに意見を出していく
3. 意見を出したら、Tryの中からいくつか試してみる
4. 試して上手くいったことは次のKeepに入れる
 解消したProblemがあれば取る

5. また意見を出してみる…
 というのをぐるぐる回す

■ポイント
・TryでうまくいったものがKeepに入っていく
 良い行動のナレッジが蓄積され、更に強化される
 ナレッジが蓄積されて次に繋がっていく
 →これがKPTのフォーマットのメリット
・「振り返り」というと、課題をどうするかという考えが多い
 でもKPTはそうではない
 →Keepに対してもTryするという視点がある
・駄目なところをよりよくするだけではない
 良いところも伸ばすことができる
 →あるいは繋がりなく、工夫したいこともTryにいれる



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まとめ
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■KPTは本当に簡単
・3つしかない

 工夫して自分の使いやすいように使っても良い



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知見
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 ■Keep
・書くこと
 うまくいっていて次も続けたいこと
 よいこと
・Keepを新たに出すときのヒント
 Keepを上げるのって難しい、Problemはたくさん出てくる
 些細なKeepでも上げることが大事
 チームでやるときであっても個人的なKeepを上げてもらう

 →それがきっかけになる
 みんなが共通のことをあげないという制約はなくてよい
・サイクルを回すと言う意味では、前回のTryを検討することも考える

■Problem
・Problemをどう訳すか
 個人的には不満と書くようにしている
 →問題点というと大げさ
・ポイント
 自分が感じることをまず出すことが大切
 →だから不満と言う言葉を使う
 未来に発生しそうなことも上げてよい
・上手くいかなくなる代表的なパターン
 「xxxをしていない」という行動の否定表現

 →ProblemからTryを考えるとき、単なる裏返しにしかならない
 →→TryからProblemを見たときに、何が問題なのか分からなくなる

■Try
・書くこと
 PからTryに関する線
 KからTryの線

 ひらめきの線
 →3つの視点から考える
・3つから出していって、幾つか選ぶ

■KPTが形骸化するパターン
・全部やる
 Tryをたくさん上げて、全部やるとよさそうだ
 →振り返るとどれもやってない状態になりがち
 →振り返りやっても行動に結びつかないよなあ…
 →何の価値も生まない
 「効果あるんじゃないの?」というもの
 →これに絞って幾つかやるといいと思う

・抽象的なTry
 行動できなくなる
 →振り返りのどこかの段階で行動可能にブレイクダウンすること
・「しっかりxxx」「ちゃんとxxx」
 「見積もりが外れたので、しっかり見積もる」
 →「…では、どうするの?」という話
 →具体的に


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演習 : KPTを体験
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■個人演習
・フォーマットはなんでもよい
・確認すること
 Problemを見て、行動の否定形(~してない)になってないか



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エクササイズ : 行動の否定形になっているProblemを改善してみる
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■1人目
「メールを数時間見ていなかった」

『何が問題だったの?』
『何が困った? 何がありそうだった?』


「返信が遅れた」

『じゃあ返信が遅れないためにどうすれば?』

 ※「数時間見ていない」だと回数を増やすという話になってしまうけど、ここまでやると選択肢が増える

■2人目
「KPTをマインドマップ風にやったらできなかった」

『できなくて何が困った?』

「KPTが進まなかった」

『もう少し掘り下げると… KPTが進まなくて何が困った?』

「演習が終わらない」

 ※ここまでやると、『では何すればよかった?』と掘り下げられる
 ※でも、これは可能性のProblemなのでそもそも難しいかもしれない

■ポイント
・「~してない」はやりがち
 これが出てきたら掘り下げる
 →裏返しではないTryが出しやすい
・特に個人でやるときは気をつける
 気づかないことが多い



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KPTの活用法
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どう使うのかが重要

■ソフトウェア開発での適用例
・アジャイル
 チーム単位
 毎週、イテレーション毎
・スパイラル
 チーム単位
 毎週、隔週、イテレーション毎(1-3ヵ月)
・ウォーターフォール
 チーム単位
 工程毎、プロジェクト毎
・保守業務
 チーム単位
 案件毎、1ヵ月毎

■ソフトウェア以外
・PMO
 毎週で情報共有のため
・総務
 隔週で俗人化排除、モチベーション向上のため
・改善チーム
 毎週で活動のモチベーション向上のため
・目標管理
 半期。KPTの流れで面談を行う
・新入社員研修
 毎日。プロジェクト演習の際に実施
・コールセンター
 毎日、毎週、隔週。情報共有、モチベーション向上のため

■エピソード : 朝会
・盛り上がらない朝会をきっかけに振り返りを始めさせた話
今の朝会の満足度を指で表現してもらう(じゃんけん表明)

2-3ばっかりで、5がない

「それでいいんですか?」

「よくない」

気になるところをふせんに書いてもらってそこからKPTに流れ込んでいった

■エピソード : バスケチーム
・負けると悪いところばっかり出してしまうのでKPTを使ったらうまくいったという話
KPTではなく次のような見出しにした
 →良いところ
 →もうちょっと頑張れたと思うところ
 →次はどうする?

■KPTのいいところ
・見出しは自由
 Tryにつながればよくて、KPT似たような視点で書いてあればなんでもよい
・「"KPT"をやらなければいけない」ではない
 それだとKPTを説明しないといけないというプレッシャーがある
・まずは問題からでもよい
 「あー、これは問題だね」
 →問題意識をみんなで共有できれば振り返りを進めていくことができる




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KPT振り返り
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■KPTはチームで振り返るときに一番効果を発揮する
・振り返りとは
 過去の学びを未来に活かすこと

 (学びには経験から得られる気づきを含む)
・KPTはカイゼンサイクルのCheck, Act, Planに相当する
・いつでもどこでも誰でも行えるのがポイント

■カイゼンサイクルは開発プロセス全体で回さないといけない
・例えばこんなサイクル
 Plan … 週計画会
 Do … 朝会
 Check … ふりかえり会
 Act … ふりかえり会
・チームでリズムに乗り、見える化で仕事を進めるのがポイント
・振り返りに時間をかけない

 →時間がかかるとみんな嫌がる

■付箋紙
・チームで振り返りするときのポイント
 全員が気兼ねなく話せること
 →でも難しい。やっぱり何かある
・だから付箋

■振り返り会の効果
・対話の場作りになる
 メンバー間で話しやすくなる
 話さないと疑心暗鬼になってしまうこともある
・ナレッジの共有ができる
 個人の暗黙知の表出化、共有
・コーチング効果がある
 目標達成に対する自主性が増す
 知識を共有して腹落ちする
・チームビルディングになる
 チームの行動規範が生まれる
 チームに一体感が生まれる

 目標達成をするための知恵や工夫が出てくる
・アイデアの創発が起こる
 質の高いアイデアが生まれやすい
 チームとして前向きな思考に
・きちんとしたファシリテーションがあればある程度達成できる



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演習 : ペアドロー
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■やり方
1. 2人一組になって絵を描く
 →交互に一筆ずつ
 制限時間は2分
2. 終わったら振り返り
3. 2人一組になって絵を描く
4. 振り返り
5. 2人一組になって絵を描く

■振り返りでやること
・毎回やること
 それぞれKPTを書く
 話し合いながらもっと出す
 Tryから、次のペアドローで試すものを決める
・2回目以降行うこと
 KeepからTryに移す
 Problemから外せるもの
 →これをやってからKPTを書く



左から1, 2, 3回目のペアドロー




ペアドローのKPT




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応用
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■KPTA
・KPTにActionを追加したもの
 Tryだと具体的じゃない






天野勝様、アジャイルサムライ横浜道場様、ありがとうございました。

2013年10月28日月曜日

【チラシの裏】A. H. マズロー『人間の動機づけに関する理論』の翻訳が公開されている件について

マズローの"A THEORY OF HUMAN MOTIVATION"の翻訳がありました。


A THEORY OF HUMAN MOTIVATION -J (Project Sugita Genpaku):
http://subsite.icu.ac.jp/people/yushi_inaba/ProjectSugitaGenpaku/Maslow.html
学生さんの作った翻訳なのですが、相互にレビューを行ったうえ、最後に教授による監修が入っているようです。



読んでみると、欲求の段階(順序)は絶対ではないとか、行動と欲求の関係は1 : 1ではないとか、巷で聞く欲求段階説の解説とはずいぶんと趣が違うような…


■欲求の階層について

『低次の欲求が満たされると1つ上の欲求を満たそうとする』みたいな話を聞くことが多いのですが、実際には

 基本的欲求の階層性の定着度 - 我々は今までこの階層性があたかも定着した順序の用に話してきたが実際は暗示したほど厳格なものではない。我々が研究してきたほとんどの人々が、このように示されてきた順序の基礎欲求を持っているように見えたのは事実だ。しかし、例外も多数あった。

階層は厳格なものではないそうです。




■欲求と行動について

また、"欲求は段階的に満たされる" というのは、"ある段階の欲求が満たされていない人は、その段階の欲求を満たそうと行動する" ということであり… つまり欲求と行動は1 : 1の関係になるみたいな関係で取り扱われるのですが、実際には

 あるいは換言すれば、ほとんどの行動は多様に動機 づけられているのである。モチベーションの決定要因として、いかなる行動もただ一つの基本的衝動によってではなく、同時に複数、あるいはすべての基本的欲 求によって、動機づけられる傾向がある。ただ一つの基本的欲求に動機づけられることの方が、複数のモチベーションを持つ場合よりも少ないのである。摂食行 為は、一つには食欲を満たすために行われ、また他方では安楽と他の欲求の充足のためになされるのだろう。

かならずしもそうではないみたいですね。




紹介したリンクはあくまで翻訳なのですが、それでも意外な発見が所々にあり、やっぱり出自に当たることは大事だなあと思いました。

2013年8月8日木曜日

「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」その2

 2013/08/06に開催された「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」のノートその2です。その3まで続く予定です。

その1


◆認知性(分かりやすさ)と拡張の話

■人間の願望
・「現実世界を拡張したい」という願望
 →これはかなえられない願望
・でも、「人間の認知を強化したり、支援する」というのがある
 →空間的な定位(どこにいるか)に関する支援
 →時間的な定位(過去・現在・未来)への支援
 →対象の把握への支援

■こういった願望は昔からあった
・ネットで探してきて見つけた
 →昭和の透視メガネ
 →明治時代のX光線機
 →ワンダーチューブという道具。そこから除くと透けて見えるという…
・人間には「認知(我々が見ているもの)を異常に強化したい」という願望がある?

■それが古来から実現されていた1つの例 = 地図
・人間はある場所にいる
 →そこから見える景色というのは一様
・視点を変えれば、移動すれば違ってくる
 →でもそれだけでは、「自分がどこにいて、どこに向かって歩けばいいか」は分からない
 →そこで地図
・人間は昔から地図を作ってきたという歴史がある
 →認知を拡張したがっているという歴史

■地図にはある種の理想化がある
・我々にも理想化という仕組みがある
 →理想的に簡素・簡略化するという傾向がある
・路線図の山手線は真円のような形
 →実際には縦長
・都営地下鉄の大江戸線を中心にした路線図
 →まるで、他社の路線が大江戸線に従っているように作ってある



◆情報の簡素・簡略化とデザイナーの関係

■デザイナーはより情報の簡素・簡略化を行う(傾向がある)
・デフォルメされた道路図
 →その地図を指して「xxで事故がありました」と言われても、実際の地図のどこに相当するのか分からない
 →→デフォルメした見た目がよくても意外と不便
・天気予報の日本地図もそう
 →とてもデフォルメされている
・誰かが簡略化したものなのだが、とても使いにくい…
 →でも一向に改善されない

■デザイナーの嗜好
・デザイナーが作った地図(会社の案内図など)
 →道がまっすぐなものがとても多い
・google mapの地図と比べると?
 →デザイナーの地図では直線として表されているものが、折れていたり曲がっていたりする
 →→google mapは地理的により正確な地図
・デザイナーは直行と直線が好き
 →この2つの原理を使うだけで、かなり歪んだ地図を作ることができる

■2つの地図を使った実験
・1人はデザイナーの作った地図、1人はgoogle mapの地図
 →同時に歩かせると、どちらが先に着く?
 →→実際の地形に近い地図を持っている方が早く着く
・デザイナーには反省してもらわないといけない
 →「自分なりの意匠を(無理してでも)考えないといけないと思っているのだろうか?」



◆拡張した認知と自己位置

■シンガポールの路線図
・路線図上はまっすぐ
 →でも実際にはまっすぐではない
 →→(でもこれはスペースファクターで描けないだけかもしれない)
・電車なら、概念的には近づいていることだけ分かればいい
 →電車に乗っているとき、その道がうねっているかなんて気にしない
 →→山手線だって初めて乗る人は直線だと思うかもしれない
・そういう意味では、必ず現実に忠実である必要はないかもしれない

■バスの接近表示
・バスがどの辺りにいるか分かる
 →何駅前にいるか…どのくらいの時間で来るか、という計算ができる
・飛行機もそう
 →飛行機の高度や残り時間の表示
 →→それを見るのが好き
・でも、これを見ている人は意外と少ない
 →みんな自分のいる位置が気にならないということ?
 →→人間は自分の位置を知りたがるが、そういう面もある

■自己位置 : 俯瞰
・飛行機が地上に近づいて行く
 →立体交差などが上から見える
・立体交差にいる車
 →「自分はどこにいる?どこに合流しようとする?」
 →→地図を見てその通りに走って目的地にたどり着く
・でも、全体を俯瞰できれば現在の位置はとても分かりやすい
 →飛行機に乗っているときのように見えれば…
・この特性を使ったカーナビもある
 →鳥瞰図と平面図を一緒に表示している
・では鳥瞰図はどれくらい分かりやすい?
 →雰囲気としては分かりやすい
 →→どこをどう曲がるかは平面地図の方が分かりやすい
・でも鳥瞰図は分かりやすい気がする
 →不思議なもの

■自己位置 : 平面
・カーナビの2つのモード
 →北が常に上「North Up」
 →進行方向が常に上「Head Up」
・North Upの地図で南にいくと…
 →上下が逆なので、右折や左折するとき分かりにくい
 →→頭の中で変換する操作が必要になる
・最近のカーナビはHead Upがデフォルト
 →そういうケースが圧倒的に多い
・でもHead Upが万能なわけでもない
 →こちらは東西南北が分かりにくい

■電車を降りて、出口へ出たいとき
・「どの階段、どのエスカレータを辿れば出口に出られる?」
 →立体表示だと比較的分かりやすい
 →→案内表示だけだと延々歩かされているような気がする
・でも、渋谷駅は…
 →とても複雑な立体表示
 →→これを見て自分の行きたいところが分かる人はいない
・役に立つとは到底思えない
 →いつでも立体で良いわけではない



◆人間は認知的なマップを作りたがる

■ナビゲーション問題
・人はルートをどう考えるか
 1. 自分はどこにいる?
 2. 自分はどちらを向いている?
 3. 目標の向きは?
・サイン計画
 →実は、「人がルートをどう考えるか」には関係なく、目標にはたどり着ける
 →→サイン計画さえしっかりしていれば、たどり着くことができる
 →位置も向きも分からなくても、サイン計画さえあれば良いということ
・「でも、それだけでいいの?」という話
 →人間は環境の認知図(認知的なマップ)を作りたがる
 →→「それを考えず、目標だけというのはどうだろう?」という話
・それに、行動バリエーションが増えたら?
 →トイレに行って出てきたとする
 →→サイン計画しか知らない人は「さて… どこに行けばいいのか?」

■「分かりやすい認知図を作るためのインタフェースはないのだろうか?」
・ウェブではどう実現している?
 →パンくずリスト
 →グローバルナビゲーション
・ウェブには便利なものがある
 →「でもこれを現実世界で実現できるのか?」という話



◆エンジニアリングは認知をどう拡張するか

■どうやって時間、地理的、空間的な定位を拡張する?
・エンジニアがいろいろ考えている
 →見えているものにそのまま情報を追加する
・拡張現実(AR), HUD
 →仮想のコンピュータが生成した画像を実際に見ているものに重ねて表示しようとする技術
・カメラを向けると、それの情報(物件の値段やお店の場所)が表示される
 →それによってある程度現実を拡張することができる



◆人間中心設計とどう関係するのか

■このような認知性も、人間中心設計の目標
・分かりやすい(認知性)が高い人工物はユーザビリティを高める
 →でもユーザビリティは独立変数の1つ
・ユーザビリティだけではUXは高まらない
 →ユーザビリティはUXに貢献できるだけ

■では、経験工学ではどうか?
・人間工学におけるテイラーイズムほど単純ではない形でやりたい
 →「満足度の高い環境やシステムを作れないか?」
 →→これを経験工学の1つの目標にしたいと考えている

(続きます)






黒須 正明様、佐々木 正人様、ジュンク堂書店様、ありがとうございました。

2013年8月7日水曜日

「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」 その1

 2013/08/06に開催された「『人間中心設計の基礎』刊行記念 トークイベント @ジュンク堂書店」のノートその1です。その3まで続く予定です。



◆『人間中心設計の基礎(HCDライブラリー第1巻)』の勘所

■本の執筆趣旨
・大学院修士・企業の方を対象にした教科書
・網羅的で自分の主張はない(抑えた)
・バイアスがないので安心して読んでもらえる

■どんな本か?
・基本は人間中心設計の本

■人間中心設計とは?
・人間の特性や利用状況、環境や生態に適合した人工物を設計するためのもの
・元々は人間工学の考えから入ってきているもの
 →物理的な環境(温度、湿度、照明)も重視している
・でもそれだけではない
 →社会的、心理的環境も含めて考えている
・人間的な特性も入っている
 →心理的な特性、性格的な特性、価値観などなど
 →エルゴノミクス的なものだけではない
・他にも人間の特性には色々ある
 →身体
 →認知
 →不自由など
 →→これらも入っている
・利用状況
 →状況に応じて使うものが違う
 →→座っている / 立っている
 →→屋内 / 屋外
 →→通常時 / 緊急時
 →状況を考えようということ

■人間中心設計の反対にあるもの = 技術中心設計
・「技術があるから」「性能が向上したから」という理由で作ってしまうもの
・具体例 : 三次元テレビ
 →昔から技術はあった
 →→心理学の両眼視差で作ればよいというのも分かっていた
 →でも、輻輳や調節という眼球の生理的手がかりを無視している
 →→見ていると疲れる
 →だから流行らない
・三次元テレビは以前にも流行りかけたことがある
 →でも駄目だった
 →→また諦めずに技術者はやってしまう
 →→→そして流行らなかった
・具体例 : 最近の掃除ロボット
 →フローリングでさーっと綺麗になっている部屋なら掃除できる
 →→そんな部屋、実際にどのくらいあるかは分からない
 →→→でも、そういう所でしか使えない
 →座布団の上にあるおせんべいのこぼれかす
 →→このロボットに拾える?
 →面白いけどこのロボットも技術中心設計だと思う


◆ユーザビリティとは何か

■概要
・人工物が備えるべき性質
 →生身の人間ではできないことを人工物で支援しようということ
・2つのファクターがある

■1つ目のファクター : 有効さ
・やりたいことができること
 →やりたいことがあり、やりとげたいのが人間
・寝返りのような意識的ではない行動は除外される

■2つめのファクター : 効率
・時間が短い = 効率がよいということ
・でも時間が短いことだけではない
 →身体的リソース(披露)も関係してくる

■初期状態から目標状態へ
・最初は初期状態
 →目的が達成されていない状況
・そこから目標状態に向かっていく
 →この2つの状態の距離をどうやって埋めていくか
・うまくいかない、途中で諦める
 →無効
・なんとかたどり着く
 →有効
 →→非効率でもたどり着けるなら有効だということ
・効率 = 有効な形で目標に到達できて、しかも短時間リソースを使わないで出来ること
 →お金、時間、披露をかけないでできること

■有効さの点でユーザビリティが低い例 : windows95, 98 
・意味の分からないエラーメッセージ
 →「karnel32.exe」ってなに?
 →「一般保護違反」ってなに?
 →「閉じる」ボタンは分かる
・人間には「閉じる」しか分からない
 →意味が分からなくてもボタンを押すしかない
 →→でも、それって意味ないでしょう?

■効率の点でユーザビリティが低い例 : amazon
・本を買おうとすると、少なくとも5手順は必要
 →手数がかかる
・ワンクリックという仕組みがある
 →誤購入とかはあるけど、こちらはとにかく便利(ここでいう便利さ = 効率)



◆ユーザビリティ以外にもUX(ユーザエクスペリエンス)という概念が出てきた

■ユーザビリティは品質の特性
・ユーザビリティはモノの特性
 →それを幾ら良くしてもユーザが満足するとは限らない
・『ユーザの満足』はもっと広い概念
 →ユーザビリティだけよくしてもデザインが悪いと嫌われるということ

■品質と満足感の関係性
・ユーザビリティで言うところの品質 = モノの側面の話
 →UXから見たら独立変数の1つ
 →因果関係なら原因の1つ
・満足感 = 人の話
 →従属変数
 →因果関係では結果の方

■ユーザビリティからUXへのシフト
・2000年代前半まで
 →ものを作っている人の関心 = モノをよくする
 →古典的
・2000年代広範 ~ 現代
 →受け取った人がどう感じるかを考え、それを良くしないといけない
・このようにシフトしてきている

■UXにおける事前、最中、事後
・この3つがとても大事になってくる
・事前 : 満足感は使っているときだけのものではない
 →期待感 = 実際には存在しない経験
 →でも一種の経験
 →→「こういうものがあったら嬉しい」
 →→「こういうものを使ってみたい」
 →マーケティングの人達が力を入れているところ
・最中 : 実際に使ってみて満足するか
・事後 : 長い間使っていて満足できること
 →『最中 : 使ってみて満足する』とは違うことが多い
 →買ってみてはすぐ良いと思うけど、面倒になって使わなくなってしまったりとか
 →家に持って帰って寝るとき使おうと思ったけど、音がうるさくて嫌だとか

■ユーザビリティからUXへ
・一気に広い観点で捉えないといけなくなっている



◆UXとCX(カスタマーエクスペリエンス)

■UXをCXという人もいる … どう区別する?
・モノを買うまではカスタマー
 →これは従来のアプローチ
 →→マーケティングなら買ってもらうまでが指標になる
・使い始めたらユーザー
・『買うこと』を境にして2つのフェーズに分かれるということ
 →買うという視点(カスタマー)
 →利用するという視点(ユーザー)



◆サービスについて

■製品とサービスの違い
・製品はuseするもの
・サービスはreceiveするもの

■サービスについて
・コーリン・クラークが1941年にサービス産業を位置づけた
・サービスの大きな特徴
 →サービス産業とサービス活動は別
・サービス活動はサービス産業の中にだけあるのではない
 →第一次産業、第二次産業にもサービス活動はあるということ
・製品の使い方が分からなければコールセンターに問い合わせる
 →これもサービス
・第一次産業、第二次産業でもサービスは重要なファクターであるということ
 →だからHCDで取り扱わないといけない

■サービスでも環境設定などが必要になる
・店員が笑顔で「おいしい?」と聞いてくる
 →これもサービスの一環
・でも、食器、食堂という環境設定がなかったら?砂漠の真ん中だったら?
 →あまり意味がない
・声かけはレストランという環境において始めて意味を持ってくる活動だということ
 →サービス活動にも第二次産業が生み出す製品が関係してくる



◆設計と経験のプロセスを考える

■市場と企業
1. 市場
 →ユーザーには不満、足りないという意識がある
 →→これがニーズやモチベーションになる
2. HCDでは、それをできるだけ現場(フィールドサーベイ)して集める
 →マネジメントサイドが「その方向で行く」と決定して設計プロセスのスタート
3. そこから設計されるとイメージや文章、数値などの情報が出てくる
 →それが企業の情報になる
 →→情報はテレビ、広告、記事、SNSなどに載る
4. そしてユーザーに入る
 →市場(ユーザー)に入る
5. ユーザー彼らは色々ものを探している
 →情報の中から「良さそうだ」という仮説を構築する
 →そして使ってみる(仮説検証)
6. それに並行して企業では製造、広告を行う
 →ユーザは販売されているものを買う

■経験・記憶
・買って使ったら短期的な経験になる
 →それは記憶に残る(記憶という言葉が心理学っぽい)
・長期的な経験も記憶に残る
 →「新しい機能の使い方が分からない…」
 →→電話でコール使い方を聞く
 →→→これ自体が長期的な経験になる
・販売やサポートで製品に関する活動が行われ、それが長期的な経験(記憶)として残る

■ユーザーはいずれ飽きたり不満足になる
・そのとき、使用を取りやめる
 →そしてイメージが残る
・「手足がもげた熊のぬいぐるみ」
 →直して使ったりして、それも印象に残る
 →→そういう製品がそれだけある?
・製品は初期の目標が達成できなくなったり、より良いものが出ると捨てられる
 →そういう最終的な印象も記憶に残る
・『その記憶が新製品の情報と組み合わさって仮説の構築に至る』という流れがあるのではないか?



◆経験工学について

■経験工学って?
・黒須氏が考えているもの
 →製品とサービスを扱うもの
・なんでサービスが入ってくるのか?
 →HCDはISOで規格化されているが、そこで製品だけでなくサービスもやらないといけないとされているのが発端

■UXという言い方は不十分?
・だが、CXというのも逆にユーザが入ってなくて不十分
 →だから経験工学

■経験を考える上での三つの要素
・品質特性
・感性特性
・意味性

■品質特性
・ユーザビリティ
 →1990年代から2000年代始めに盛んになったユーザビリティ工学という分野
・信頼性
 →故障しないこと
・安全性
 →火を噴いたりしないこと

■感性特性
・UX的に考えるとこういうものが入ってくる
・チクセントミハイのフローとか
 →心地よく使える状態
・使う能力やチャレンジングレベル、使い心地で決まる
・感性工学が(全てではないけど)やってきたこと


■意味性
・目的適合性、ありがたさといったものを加えたもの
・例 : 三次元テレビ
 →あればありがたい
 →でも、あるべき形になっていないという問題がある
・例 : DVDにそのまま書き込めるビデオカメラ
 →HDDカメラの登場で一瞬で消えた
 →→これも本当に意味があった?

■UXデザインと経験工学の違い
・品質特性、感性特性までを取り扱うのがUXデザイン
・意味特性まで取り扱うのが経験工学







黒須 正明様、佐々木 正人様、ジュンク堂書店様、ありがとうございました。