その1
◆認知性(分かりやすさ)と拡張の話
■人間の願望
・「現実世界を拡張したい」という願望
→これはかなえられない願望
・でも、「人間の認知を強化したり、支援する」というのがある
→空間的な定位(どこにいるか)に関する支援
→時間的な定位(過去・現在・未来)への支援
→対象の把握への支援
■こういった願望は昔からあった
・ネットで探してきて見つけた
→昭和の透視メガネ
→明治時代のX光線機
→ワンダーチューブという道具。そこから除くと透けて見えるという…
・人間には「認知(我々が見ているもの)を異常に強化したい」という願望がある?
■それが古来から実現されていた1つの例 = 地図
・人間はある場所にいる
→そこから見える景色というのは一様
・視点を変えれば、移動すれば違ってくる
→でもそれだけでは、「自分がどこにいて、どこに向かって歩けばいいか」は分からない
→そこで地図
・人間は昔から地図を作ってきたという歴史がある
→認知を拡張したがっているという歴史
■地図にはある種の理想化がある
・我々にも理想化という仕組みがある
→理想的に簡素・簡略化するという傾向がある
・路線図の山手線は真円のような形
→実際には縦長
・都営地下鉄の大江戸線を中心にした路線図
→まるで、他社の路線が大江戸線に従っているように作ってある
◆情報の簡素・簡略化とデザイナーの関係
■デザイナーはより情報の簡素・簡略化を行う(傾向がある)
・デフォルメされた道路図
→その地図を指して「xxで事故がありました」と言われても、実際の地図のどこに相当するのか分からない
→→デフォルメした見た目がよくても意外と不便
・天気予報の日本地図もそう
→とてもデフォルメされている
・誰かが簡略化したものなのだが、とても使いにくい…
→でも一向に改善されない
■デザイナーの嗜好
・デザイナーが作った地図(会社の案内図など)
→道がまっすぐなものがとても多い
・google mapの地図と比べると?
→デザイナーの地図では直線として表されているものが、折れていたり曲がっていたりする
→→google mapは地理的により正確な地図
・デザイナーは直行と直線が好き
→この2つの原理を使うだけで、かなり歪んだ地図を作ることができる
■2つの地図を使った実験
・1人はデザイナーの作った地図、1人はgoogle mapの地図
→同時に歩かせると、どちらが先に着く?
→→実際の地形に近い地図を持っている方が早く着く
・デザイナーには反省してもらわないといけない
→「自分なりの意匠を(無理してでも)考えないといけないと思っているのだろうか?」
◆拡張した認知と自己位置
■シンガポールの路線図
・路線図上はまっすぐ
→でも実際にはまっすぐではない
→→(でもこれはスペースファクターで描けないだけかもしれない)
・電車なら、概念的には近づいていることだけ分かればいい
→電車に乗っているとき、その道がうねっているかなんて気にしない
→→山手線だって初めて乗る人は直線だと思うかもしれない
・そういう意味では、必ず現実に忠実である必要はないかもしれない
■バスの接近表示
・バスがどの辺りにいるか分かる
→何駅前にいるか…どのくらいの時間で来るか、という計算ができる
・飛行機もそう
→飛行機の高度や残り時間の表示
→→それを見るのが好き
・でも、これを見ている人は意外と少ない
→みんな自分のいる位置が気にならないということ?
→→人間は自分の位置を知りたがるが、そういう面もある
■自己位置 : 俯瞰
・飛行機が地上に近づいて行く
→立体交差などが上から見える
・立体交差にいる車
→「自分はどこにいる?どこに合流しようとする?」
→→地図を見てその通りに走って目的地にたどり着く
・でも、全体を俯瞰できれば現在の位置はとても分かりやすい
→飛行機に乗っているときのように見えれば…
・この特性を使ったカーナビもある
→鳥瞰図と平面図を一緒に表示している
・では鳥瞰図はどれくらい分かりやすい?
→雰囲気としては分かりやすい
→→どこをどう曲がるかは平面地図の方が分かりやすい
・でも鳥瞰図は分かりやすい気がする
→不思議なもの
■自己位置 : 平面
・カーナビの2つのモード
→北が常に上「North Up」
→進行方向が常に上「Head Up」
・North Upの地図で南にいくと…
→上下が逆なので、右折や左折するとき分かりにくい
→→頭の中で変換する操作が必要になる
・最近のカーナビはHead Upがデフォルト
→そういうケースが圧倒的に多い
・でもHead Upが万能なわけでもない
→こちらは東西南北が分かりにくい
■電車を降りて、出口へ出たいとき
・「どの階段、どのエスカレータを辿れば出口に出られる?」
→立体表示だと比較的分かりやすい
→→案内表示だけだと延々歩かされているような気がする
・でも、渋谷駅は…
→とても複雑な立体表示
→→これを見て自分の行きたいところが分かる人はいない
・役に立つとは到底思えない
→いつでも立体で良いわけではない
◆人間は認知的なマップを作りたがる
■ナビゲーション問題
・人はルートをどう考えるか
1. 自分はどこにいる?
2. 自分はどちらを向いている?
3. 目標の向きは?
・サイン計画
→実は、「人がルートをどう考えるか」には関係なく、目標にはたどり着ける
→→サイン計画さえしっかりしていれば、たどり着くことができる
→位置も向きも分からなくても、サイン計画さえあれば良いということ
・「でも、それだけでいいの?」という話
→人間は環境の認知図(認知的なマップ)を作りたがる
→→「それを考えず、目標だけというのはどうだろう?」という話
・それに、行動バリエーションが増えたら?
→トイレに行って出てきたとする
→→サイン計画しか知らない人は「さて… どこに行けばいいのか?」
■「分かりやすい認知図を作るためのインタフェースはないのだろうか?」
・ウェブではどう実現している?
→パンくずリスト
→グローバルナビゲーション
・ウェブには便利なものがある
→「でもこれを現実世界で実現できるのか?」という話
◆エンジニアリングは認知をどう拡張するか
■どうやって時間、地理的、空間的な定位を拡張する?
・エンジニアがいろいろ考えている
→見えているものにそのまま情報を追加する
・拡張現実(AR), HUD
→仮想のコンピュータが生成した画像を実際に見ているものに重ねて表示しようとする技術
・カメラを向けると、それの情報(物件の値段やお店の場所)が表示される
→それによってある程度現実を拡張することができる
◆人間中心設計とどう関係するのか
■このような認知性も、人間中心設計の目標
・分かりやすい(認知性)が高い人工物はユーザビリティを高める
→でもユーザビリティは独立変数の1つ
・ユーザビリティだけではUXは高まらない
→ユーザビリティはUXに貢献できるだけ
■では、経験工学ではどうか?
・人間工学におけるテイラーイズムほど単純ではない形でやりたい
→「満足度の高い環境やシステムを作れないか?」
→→これを経験工学の1つの目標にしたいと考えている
(続きます)
黒須 正明様、佐々木 正人様、ジュンク堂書店様、ありがとうございました。
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