2012年5月29日火曜日

『スタートアップのTOPが本音で語る、サービス・チームの作り方、稼ぎ方』ノート

2012/05/22に開催された『スタートアップのTOPが本音で語る、サービス・チームの作り方、稼ぎ方』のノートです。NG箇所は省きました。あと、個人的に公開しない方がいいと思った話も省きました。

なお、パネルディスカッションは会話のようになっていますが、これはあくまでノートです。テープ起こしなどではないので、そこはご了承ください。



◆パネル参加者


株式会社クラウドワークス 代表取締役 吉田 浩一郎 氏
『crowdworks』


株式会社JX通信社 代表取締役 米重 克洋 氏
『vingow』 


株式会社trippiece 代表取締役 石田 言行 氏
『trippiece』


株式会社Labit 代表取締役 鶴田 浩之 氏
『すごい時間割』



◆パネル参加者紹介


◇吉田氏

・自己紹介
  • この中の四人では格段に最年長
  • 学生時代に劇団を主宰していたが、契約のサインミスで多額の借金を負った
  • 契約の世界を知る為に社会に出た
  • 成りたい姿は鈴木俊夫。クリエーターに対するプロデューサー


・クラウドワークスとは
  • クラウドソーシングのためのサイト
  • 不特定多数の人々を募って発注をするサービス
  • 週三十時間以上(フルタイム)の仕事が60%以上ある
  • 全国のエンジニア・デザイナーに一時間単位で受発注
  • 非対面の案件に特化
  • 時給制
  • 発注者は無料!



◇米重氏

・自己紹介・チーム紹介

  • vingow開発チームの平均年齢は22歳
  • 一番下は20歳
  • 社長は23歳


・vingowのコンセプト
  • 新聞が創刊されてから500年。時代に合った新しい形。500年目のイノベーション
  • 自動的にテレビや新聞のようにスイッチを開く、紙を開くだけ
  • 検索クエリや質問といった時代は終わりにしよう
  • 集めた情報を、何か新しい知識として蓄積して有効活用できる
  • 電車でクリップして、家に帰ってから見ることができる。情報収集の新しい形
  • 我々はブレインメディアと読んでいる


・vingowの機能
  • 自分の欲しい情報を欲しいものは大きく、そうでないのものは小さく表示
  • 新しい情報は上から表示される
  • キーボードがいらない
  • 全ての記事を全文解析してタグ付けする


今は8000人くらいが使っている。



◇石田氏

・trippieceについて

旅に行ってみたい。
ただ、けっこう遠かったりするし、一人でいくのは寂しい。物足りない。不安がつきまとう。
自分で企画するのも面倒。
ツアーは、けっこうみっちりしていて高い。

行きたい旅に行く仲間を作って、それを実現するサービス。
それがtrippiece。
旅を共有して、出会った仲間と旅に行く。
帰ってきてから、写真や思い出を共有できる。


・ポイント
  • 誰かと行った方が心に残る。
  • 1人じゃなかなかできないものをやる(スカイダイビングとか)
  • ちょっとテーマ性のある旅が人気


・実績
  • 35万円(相場は50万円)の企画に一日で15人が集まり、最終的に40人が参加した



◇鶴田氏

・すごい時間割について
  • 何がすごいのか? → 時間割を簡単に管理できる
  • それぞれのコマに講義データを登録できる
  • 各コマには出席など、講義にはテストの日程などを登録できる
  • どんな人がその講義を受講しているかの一覧が出てくる。そういう興味を満たすことができる
  • 友達が同じ時間に何の講義をとっているのかを確認できる


・名前の由来
  • エンジニアがつけていたフォルダ名をそのまま使った


・テーマ
  • 一人でも便利に使える
  • みんなで使うと楽しい


時間割の共有のためのアプリだったが、暇な時間の共有ができる。
作ってみてそういうことが分かった。



◆パネルディスカッション

◇サービスを立ち上げるきっかけ


吉田「技術系の何の体験をしても向いてないことが分かったから。これが一番大きな原体験。漫画は無理。劇団・カメラ・映画とか …アングラなものもやったが、ピンとこなかった。

ただクリエーターはめちゃくちゃ好き。だから、宮崎駿に対する、鈴木俊夫。そして、インターネットとともに生まれたクリエータがエンジニア。コレに対するプロデューサーになる」


司会「どうやって踏み出せばいいのでしょうか?」


吉田「20歳で会社をやって潰した、福崎さんという人がいる。彼はとりあえずやってみた。

…まずやる、出してみる、間違ってみることが重要。(私は)それで向いていないものが分かった。

ふと思ったことを無責任に。若いうちは後で取り返しがつく」


米重「元々は航空会社がやりたかった。中学に入ってから航空業界に興味を持った。

日本の航空業界は運賃がとても高い。海外ならもっと安い。なんで日本はそれだけ高いかといえば、それは規制と寡占市場や無駄な空港をつくるための費用。それを解決したい。

で、その為に国会議員・官僚になるより、航空会社をつくったほうが早いのではないか? と考え、そういう道に行きたいと思った。

今は航空会社ではないが、同じような問題意識を持てる業界としてメディアを選んでいる。今の会社は仮想通信社という指向。通信社事業をイノベーティブにやりたい」


石田「三つポイントがある。

まず、父と祖父を超えたかった。

次に、小さいころから事業に興味があった。価値を提供してお金をもらうのが好きだった。

3つ目。バングラデシュで原体験をツイートしたら、その場でツアーを作ることになった。日本に帰ってきてから学生に聞いたら、非常にニーズがあることがわかった。

そのときのアイデアで企業してみようと思った」


鶴田「13歳のときにネットにはまっていた時期があった。ある日突然、毎日いっていたサイトが閉鎖され、行き場を失った。で、自分で場所を作ったら皆が移住してきてくれて、最終的には15万人くらいになった。人を集めるのが自分にあっているのかな、と思った。

自分が作ったところに来てくれるのがすごくやりがいがある。

そして自分の興味が広がっていった。インターネットという数十万人の人にサービスできるという可能性を肌で感じていた。そういう原体験があった。まだまだ途中」


吉田「石田さんにきいてみたいのだが、旅行の手配から設立までには距離があるような… それが会社設立につながるきっかけは?」


石田「もともとはNPO法人をやっていた。そういうなかで、自分にしっくりくるものをやりたいと思っている中でたまたま出会った」


吉田「石田さんの世代では起業はかっこいいことなのか?」


石田「かっこいいというか、やりたいこと」


吉田「皆、起業したほうがいいと思う。俺の時代、起業は非常に縁遠いものだった。今は皆やっている。もっともっとやったほうがいいと思う。鶴田さんは最初から企業というかんじだったの?」


鶴田「ものを作るのが好きで …それが企業になると2004年くらいに気付いた。今も根っこはクリエーターだと思っている」


司会「企業するためには実際にサービスを作らないといけないが、自分でものを作れるのは… 鶴田さんだけですよね? 自分でできる場合とできない場合で苦労が違うと思うのですが」


鶴田「今まで30くらい作ってきたが、苦労は …今までだと、着想から作るまでが短く、必要なスキルを一晩で覚えて作ったり、短期集中でやってきたが、すごい時間割りでは一行もコードを書いていない。

自分で作れる経験があると舵取りもぜんぜん違うという実感がある」


石田「ウェブで完結しないサービスだから僕の存在意義がある、そういうモデルをたまたま作れてよかった。そうでなかったら僕の存在意義はなかった。

CTOには毎日怒られたが、彼の力は大きかった。非エンジニアCEOの全員にあるかはわからないが、僕には超えなければいけない壁があった。

これでいいじゃん!と作って、そこにユーザがなかった。エンジニアリングはそうではなくて、何がユーザのニーズとして正解か、という思考がある。(昔は)それがなかった。サービス提供者としては失格だった」



◇どういうビジネスモデルを考えていたか

司会「どんなビジネスモデルを、どのように立案しましたか?」


吉田「まあ、わりとシンプルで。(サラリーマン時代は)営業をしていて、エンジニアの作ったものを売り込むのは割と楽しかった。その中で、沢山のエンジニアと仕事をした。

そして、沢山のエンジニアの売り込みをしたいというのをテーマとしてもっていた。5年くらいそのテーマで考えていた。で、海外でクラウドソーシングのアイデアをみてこれだと思った。

作ってみて意外だったんだけど …海外のクラウドソーシングはエンジニアを機械として使うという発想があるらしく、クラウドという言葉がエンジニアに評判が悪かった。

だが、逆にチャンスだと思った。海外ではサプライサイドに偏っているが、こちらはエンジニアに喜んでもらえるようにすればよいのではないか?と思った」


司会「先ほどの話では受注側に課金するという話でしたが、最初から狙っていたのですか?」


吉田「いろいろサービスをやってきたが …2者からお金を取るサービスはうまくいかないという原則がある。

(クラウドワークスは)エンジニアに貢献しようと思っているのだから、(クラウドワークスが)貢献しているエンジニアからもらうのが当然だと思った。エンジニアに利便性を提供するのだから、企業は無料である。

この人に価値を与えるのだからこの人からお金をもらう、という原則は崩したくない」


鶴田「大学生とつながりたい企業は沢山ある。そこに価値を提供できるのではないか?というのがある。ただ、具体的なビジネスモデルはない。

時間割りだから毎日使うだろうというのがあるし、ターゲッティングがすごいので、特定の大学とか履修傾向とかでいろいろ配信することができるのではないか?と思っている」


司会「儲けを出していくのは?」


鶴田「これから。いろいろ水平展開できるのではと思っている」


~中略~


吉田「今はお金は余っていて、どちらかというと人に主軸が移ってきている」


司会「これは質問の中にあったんですが、儲かっていますか? という話。企業してうまくいったら、めちゃくちゃ金持ちになるんじゃないか? とか、(既に)なりかけているとか …あると思うんですが」


鶴田「今は売り上げは0ですけど、9月までには黒字転換する予定。何らかの形でこの夏に収益を出そうと思っている。

今は学生に強みがあるけど、たまたまそうなっているだけ。いろいろなサービスを生み出していきたいと思っている。何か安定事業を作ってから新規事業を次々と立ち上げたい」


石田「うまくいっているの意味はよくわからないですけど …死んでないからうまくいっているのではないでしょうか? 成功が何かもよくわからないし …旅をして喜んでくれるユーザさんがいるので、うまくいっているのではないかと。喜んでくれるユーザがいるので、僕はうまく言っていると信じたい」


司会「今後収益を増やすとしたら …旅を増やすとか単価を増やすとか?」


石田「そこはいろいろ考えている」


米重「vingowというサービスは1円も収益を生み出していない。今後の半年もそんな感じ。広告・課金・APIといったビジネスモデルを考えている。vingowはすごくデータが取れる。有償のAPIでいけるのではないか?といったことや、vingow自体にもっと便利な機能を載せてプレミアムモデルというのも考えている。収益については …儲かっているわけではないけど、潰れそうなわけではない」



◇チームや採用について。どういう風に向かい入れていたか?

吉田「twitterやwishScope経由で」


米重「弊社はエンジニア4名。デザイナー2名。友人のつながりで。けっこう近い人間関係の中で広がった。twitterやwishScopeのようなつながりではない。ソーシャルメディアはちょっと怖いというのがある」


石田「最初の最初は1人。こういうのをやりたいんだというのをつぶやいたり、知り合いを口説いたり、いきなり上京してきたりとか、よくわからない」


司会「twitterはフォロワではなくて、リツイートとか」


石田「それは覚えてないなー」


司会「バンドをやろうと思ってつぶやいたことがあるが、ふざけた人しか集まらなくて …何かあるのでしょうか?」


石田「いろいろつぶやいていた。熱があった、これはやりたいというのはとにかく譲らなかった」


鶴田「web幼なじみが、だいたい同じようなキャリアなので誘った。バンド時代に同じメンバーだった人がSIerをやっていたので引っこ抜いた。最初はシェアオフィスだったので、同じ部屋にいた別会社の人を、(その人の)退社を機に誘ったりした。僕にはエンジニアの知り合いが多い。相手にあわせてタイミングを見て誘った」


司会「シェアオフィスは横のつながりは増えますか?」


鶴田「情報交換はすごいする。あの会社が資金調達するらしいとか …僕の会社は向いていないと思ってでた。みんな若いので音楽をガンガンかけたりしている」


吉田「うちはインキュベーションオフィスなので、あまり音は出せない。あと …(そういう環境から、いわゆる)会社の中に入るエンジニアも何人か知っている」


司会「少人数なので毎日顔を合わせると思います。モチベーション管理などは?」


米重「デザインはできるが、コードはかけない。私はエンジニアではない。彼らの心理はよくわからない。わかろうとして勉強したこともあったが、なかなか難しい。

彼らの話をひたすらきいて、置物になってやるような感じになっている。とにかく彼らのペースに合わせている。

こういうビジネスモデルに向けて、こういう将来像に向けてやるんだという話はとにかくしているが、それ以外のことについては …自立した人が集まってくれたおかげ」


石田「旅に行ってくれっていってます。疲れたら旅に行ってくれといっている。エンジニアはなかなか行きたがらないのだが …あと合宿を2ヶ月に一度くらいやっている。合宿はモチベーションがあがりすぎて次の日がつらいというのがあるが、モチベーションをあげるにはよい。仕事をしてご飯を食べながらとか。場所が違うというのはそれだけ刺激になる」


吉田「一番いいモチベーションはでかい夢を共有していることだと思う。2年くらい前だが、社員に謀反を起こされた。自分の強みが生かせる先に人を引っ張っていくのじゃないと、こういうことになるのだなと …会議は3回くらいしかしていない。Redmineで情報共有はしているが、会議はほとんどしていない。夢を見せ、それを共有している。夢はわかりやすいものにしている」


鶴田「うちの開発体制はアジャイル・スクラム・リーンでやっている。3ヶ月で体制ができ、一週間でリリースできるようになった。

で、自分は会社に泊まりこんでいたのだが、毎日5, 6人で寝泊りしているとプライベートな話とかしなくなる。みんな常にいるので個人と個人で話す場がなくなる …なので、メンバーをシャッフルしてランチとか合宿とかをしている。

また、開発が大変な時期、目の前のタスクに追われているときは、実際のユーザとの対話の機会を増やす、というのをやっている。人に使ってもらっているというのを知ってもらうきっかけにしている。

自分はともかく、社員はなかなか外にいけないので、会社にゲストを呼んでいる。

あと、みんなプライドがあるので、取り組みがなかなか進んでいないときに抱え込んでしまうことがある。それは個人ではなくチームの問題とするようにしている、それを朝会で出してもらっている。

半年くらいは試行錯誤した。1人で作るのと5人で作るのでは全く違う。5人ひとつの頭脳を持つというのを考えている」


吉田「うちはすごい課題になっていて …すべて全員が認識している感じ?」


鶴田「全員。うちはスクラムでやっているので。人数が増えたときにどうなるかというのは、これから」


吉田「例えばUXだと、全員が同じ時間触らないと共有できなかったりするが?」


鶴田「少人数のチームだと全員で意思決定することがあるけど、それだとすごい遅くて …三人くらい選んで別室で話をしてもらうと15分くらいで決まる」



◇作るにあたっての技術、広げるためのプロモーション

司会「最初はどのくらい投資して、どのようにスケールさせたか?プロモーションの方針や『これが効いたぞ!』というのを教えてください」

吉田「初期投資の基本は持ち出し。生活に余裕がある限りはお金を受け取らないという。メンバー全員にどれくらい余裕があるか聞いた。

今の時代は個人が強い。なるべくイベントとかに顔を出して、そういう人たちに共感してもらう。リスティングにお金を突っ込むより、個人につぶやいてもらうほうが効果が高い。うちはリスティングよりは実際のイベント、インフルエンサーと話すというのをやっている」


米重「プロモーションは …いまはオープンベータでやっていて、景品代くらい。TechCrunchに書いてもらい、そこから興味を持ってもらってというのがあって …出向いて書いてもらうというのはあるが、それ以上はやっていない」


石田「僕らはまだアルファ版をうたっている。知らない人と旅にいくというサービスが世の中になくて、まだ調べている段階。初期投資はまだ続いている段階。プロモーションは特にやっていることはない。僕自身がイベントに出たり、メディアの人と親しくなって書いてもらったりしている」


鶴田「学生向けのアプリというのがあるが …プロモーションは口コミが多い。口コミのためにメディアをうまくつかっているというのはあるが、大学生はメディアを見ていないというのがある。外的なプロモーションよりは、(アプリの)中にバイラルする仕組みとか。1人使ったら1人以上使う仕組みにすれば5000人くらいから勝手に広まるのではないかというのがある。あと、学生サービスなので、学園祭とかとバーターでやっている。他の大学に宣伝する代わりに広告を出してもらったりとか。サービスにあわせた工夫をする必要があると思う」



◆質疑応答

・鶴田氏がコードを書かないのは、敢えてそうしているのか?

鶴田「単に自分より優秀なエンジニアがいるのがひとつ。全体を見る必要があるかな? というのもある。それに、全体を見ていてほしいとエンジニアからも言われる。そういう役割が必要」


・たくさんの機能を開発できない中で、何を基準に機能や仕様を絞り込んだのか?

吉田「うちはシンプルなので …個人以外はかなりそぎ落とした。ただ、将来的にはグループでも仕事を進められるようにしようとはしている」

米重「『一言でいうと新しい新聞です』と言えるような機能は作った。で、画像は後回しにした。コンセプトから逆に、まず作る機能などを決めた」

石田「ユーザやペルソナが欲しがっているもの。とりあえずこれがあれば実現できると言われたような気がしたもの。それが分からない場合は、仮説をたててその真髄を取り出し、それを機能化した」






Web CAT Studioの皆様、吉田様、米重様、石田様、鶴田様、ありがとうございました。

2012年5月20日日曜日

Fearless Journeyかんたんガイド

Fearless Journeyのルールや準備・進め方をまとめた資料を作りました。



2012/05/21追記


1. ちょっとだけ改訂しました。


2, 私が作ったpngファイルは印刷するには解像度が低すぎました…
印刷したい方は次のリンク先にあるpdfをご利用ください。
https://docs.google.com/open?id=0Byh-cIUeiW9wRV9IVmVCZ3o2Zjg


Fearless Journeyかんたんガイド


◇Fearless Journeyって何?


ゲームです。

目的の妨げとなっている障害を、いかにチームで克服するのかを学ぶためのものです。

障害を取り除くための戦略をFearless Changeという本の48のパターンから持ってきているのが特徴です。


詳しくは以下のリンクをどうぞ。

公式サイト
http://fearlessjourney.info/


@kdmsnr様のスライド
http://www.slideshare.net/kdmsnr/fearless-journey



◇カードの準備

カードには、印刷すれば済むものと自分で内容を考えるものがあります。


・印刷すれば済むもの

パスカードと戦略カードの2つです。

1. http://fearlessjourney.info/からファイルを入手します。

2. 上記サイトの『FREE Download』から『FearlessJourney Game / English』『FearlessJourney Game / Japanese』をダウンロードしてください。

3, パスカードはEnglishのzip、日本語の戦略カードはJapaneseのzipに入っています。


・内容を自分で考えるもの

開始カード・成功カード・障害物カードは内容を自分で考える必要があります。

1. 何かの紙を切り出してカード状にします。

2. 自分のチームの現状や目的を書いたものを、開始カード・成功カードの上に置きます。

3. 目的達成を妨げる障害物を20個書きます。

4. 余ったカードは白紙カードになります。




◇最後に

先日のスクラムプロダクトオーナー勉強会で、Fearless Journeyを実際にやりました。

楽しかったです。皆さんも是非。




あと、気付いた点などあればご指摘くだされば幸いです。

2012年5月6日日曜日

『第9回情報デザインフォーラム - 情報デザインのワークショップ』ノート


2012/05/04に開催された第9回情報デザインフォーラムのノートです。素晴らしい講演がたくさんあった。だからその講演内容を的確にまとめてみよう…! と考えていたのですが、見返すとノートの半分は私の感想でした。

なお、当フォーラムのテーマは『情報デザインのワークショップ』であり、8人の講演者による発表と学生によるパネルディスカッションがありました。パネルディスカッションはただただ見いってしまったので、ノートはありません。



◆オープニング

情報デザインのワークショップという本を作るために資料を持ち寄って集まったら、その資料の内容がよくて、だったら発表しようじゃないか …という流れで今日があります。という話でした。ハイスキルな人同士が集まっているからこそ成り立つ、この頂上決戦的な流れは好きです。


◆第一部 大学でのワークショップ

◇山崎和彦氏 - 『情報デザインのワークショップ・プロジェクトと体験ワークショップ事例』

体験という言葉とワークショップとの関係性についての話がメインでした。たしかに、参加者が体験をとおして『学び』を得るという、ワークショップが持っている特性を語るのであれば、『体験』が持つ意味や価値について論じるのは重要なことだと思いました。特に印象に残ったのは「ワークショップを誰とするか?」という話です。割とあっさりと触れただけだったのですが、このくだりを聞いて、私が持っているワークショップという概念についての認識は飛躍的に広がりました。 …というよりは、自分の体験によって植えつけられたワークショップという概念についての認識が矯正されたというか。人と人のコミュニケーションを通して作り上げていくものがワークショップである、というあたりまえの点について自分の中で勝手に枷を作っていたのだな、と反省することしきりでした。

以下、メモ。

・ワークショップは知識を得る場所ではなく、作り上げて本当の学びの楽しさに目覚めるためのもの。

・ワークショップでは『体験』することが重要。つまり、ワークショップ自体のデザインが重要になる。

・ワークショップにおける体験の分類
  1. 自分が体験
  2. チームと一緒に体験
  3. ユーザの体験をする … デザインのワークショップでは重要

・ワークショップを誰とするか
  1. デザイナ同士
  2. デザイナ・ユーザ間

・体験とワークショップの関係
  1. 体験を観察するワークショップ … 相手を理解する
  2. 体験から発想するワークショップ … アイデアを広げる
  3. 体験を視覚化するワークショップ … 個人的な作業を共有・評価し広げる
  4. 体験とビジネスを考えるワークショップ 
  5. 体験と社会環境を考えるワークショップ

・ワークショップの目的
  1. 学ぶ楽しさ・自主的な学び
  2. 発想の拡大・視点の広さ
  3. 共有・合意形成
  4. 相手の理解促進



◇原田 泰氏 - 『インフォグラフィックスを通して学ぶコンテンツ・デザイン』

図や絵は言葉と同じであるという価値観を持っているということをおっしゃており、実際にスライドの中で使われているインフォグラフィックスを見ると、ポテンシャルが高い表現技法なんだな、と興味を惹かれました。

  • インフォグラフィックスの制作工程

  • 1-1. 現実
    1-2. 解体
    1-3. 再構成
    1-4. 表現
    1-5. 魅せる/反応

    (フィードバック)

    2-1. 現実
    2-2. 解体
    この説明の際に使用している図が印象的でした。現実をパズルのピースのように解体しそれを再構成している図なのですが、メッセージがとても明確に伝わってきて、それが非常に印象に残りました。後で参考にしようと急いで描き写したのですが、私の描いた絵はまるで小学生の落書きみたいな感じになっていて、当初の意図とは異なる”味”のようなものを醸し出していました。スライドの写真を撮っておけばよかったとつくづく思います。

  • コンテンツ・デザインはメッセージを自分の言葉で表現し人に伝えるものである。
  • インフォグラフィックスの利点は『人に伝えることができる』『次の工程で再利用できる』ということ。
  • このような教育を行なう意図
  • ・ラピッドプロトタイピングをする体質を作りたい
    ・自らフレームワークを作り、使いこなせるようになって欲しい

インフォグラフィックスの視覚言語としての表現力と可能性を目の当たりして、モホリ・ナギのフォトモンタージュ作品やその造形理論をおさらいし直したいなー、とか思いました。



◇上平崇仁氏 - 『デザインワークショップの故きを温ねて新しきを知る試み』→『昔の事例を再解釈して新しいデザインワークショップをやってみた

過去の人達が作ったり実践したデザイン性の高い作品・授業・ワークショップを元にして、ワークショップを作成しているという話をしていました。そして、ワークショップを作り実践する中で浮き上がってくるものを指して「過去の事例から変わらない大事さが見える」ということを言っていました。時代を越えて普遍な大事なものがあるよね? ということです。また、過去のワークショップに学ぶことについて「そうしないと先人の実践が埋もれたままになってしまう」といった趣旨の話をしていたことも印象的でした。

そのほかにも、ワークショップやその周辺の概念についての見解を述べていたのですが、この点についても関心することしきりでした。一方的に教えるというやり方のデメリットの話から、これを裏返す形でワークショップを選択することの理由を導き出したりしており、私は見事に説得されました。


以下、メモ。

  • 何故ワークショップか? 『人は言えば聞き、聞けば理解する』わけではないから。
  • 学びは、知識をためるものではなく、社会的に構成されるべきもの。
  • 教えることにはデメリットがある。教わる側に固定観念ができ、それによって思考停止してしまう。だから、教えるより自分で学ぶ(ワークショップの)方がよい。
  • ワークショップのツールに重要なこと。道具になっていて、参加者がお互い確認ができるというオープン性があること
  • ワークショップには限界がある。参加することでやった気になるが、自信には繋がらない。また、ワークショップ中毒者というものが存在しており、彼らは週末温泉に行くかのごとくワークショップを利用している。

・ワークショップの構成要素
  1. 身体
  2. 協働
  3. 創造
  4. 共有
  5. プロセス重視

・ワークショップのポイント
  1. 先生はいない
  2. 客ではいられない
  3. はじめから答えがあるわけでない
  4. 頭とからだが動く
  5. 交流と笑いがある

・ワークショップの切り口

明確に切り分けできないが、次の2つがある。
  1. ワークショップを通して何かをデザインする
  2. デザイン手法や考え方をワークショップで学ぶ

・まとめ
  1. デザインにおいてワークショップと実践は同等
  2. 過去の事例から変わらない大事さが見える



◇安藤昌也氏 - 『写真を使った価値マップによるサービスアイディア発想』

サービスデザインの領域がだんだんと拡大しているという話と、ワークショップに適用する概念として『AT-ONE』というものがあるという話をしていました。で、後者の『AT-ONE』についてUXをする人が陥りがちな点と、重視すべき概念について話をしており、なるほどなーと思いました。

以下、メモ。

・サービスデザイン領域の拡大
  1. 『ニーズの充足』自体を価値とし、それを提供
  2. 『欲求の実現』体験した人が感じることを価値とし、それを提供
  3. 『意識→参画→価値』価値ではなく機会を提供

・AT-ONE
  1. Actor 登場人物を広く
  2. TouchPoints どうつなぐか
  3. Offering 何を提供しているか
  4. Needs 本来満たすべきニーズは何か
  5. Experience

・AT-ONEのポイント
  1. Offeringが重要。
  2. Offeringを正しく導けば、正しいActorやTouchPointsを導くことができる。
  3. UXはNeeds, Experienceを考えがち。



◆第二部 社会人のためのワークショップ

◇木村博之氏 - 『インフォグラフィックスは自分で考え行動させるためのキッカケデザイン』

インフォグラフィックスやコミュニケーションの手段に留まらずプロダクトへ適用範囲を広げているという話が大きかったです。デザインが求められる領域がどんどん広がっているというか、デザインに対するリテラシが大きくなっているのだな、という話です。個人的には、デザインに予算を投下できないようなプロジェクトでも、それなりのデザインを持っていることは大前提になるのではないか? という気がしています。私はそちらの方がいいので、情報デザインやユーザエクスペリエンスという技術が、世界にあまねく浸透し広がってくれることを本当に期待しています。また、ワークショップに参加することについて述べた際に「自分で考え行動するためのきっかけでしかない」と言い切っていたのが非常によかったです。


以下、メモ。

・フレーミング・リフレーミングが重要

・インフォグラフィックスの作成手順

(だいたいこんな感じだったような…)
  1. 伝えたいことを決める
  2. データを集める
  3. 伝えたいことを再考する
  4. 表現を考える
  5. 情報を絞り込む
  6. レイアウトを考える



◇小路晃嗣氏 - 『組織におけるワークショップの目的とその運営のためのポイント』

組織とワークショップという、私にとってピンポイントかつ即効性があるという非常に気になる講演でした。内容も期待を上回る素晴らしい内容だったのですが、全体としてメモがぜんぜん追いついていかなったという… 非常に残念です。「もっと大事な情報がたくさんあったような気がするのだけど…」と、ノートを見返す度に思います。スライドが公開されることを祈るばかりです。また、『ワークショップ開催のポイント』の箇所のスライドで、皆がカメラを取り出して撮影しまくっていたのは非常に印象的でした。私も確固たる決意を持って撮影に望めばよかったと思います。

・ワークショップの開催は継続して行なうことが大事、というのが結論。

・ワークショップには縦割りの組織の中で機会がないような人々が会う、というメリットがある。

・会社では費用対効果が求められる

・ワークショップ開催のポイント
  1. 儲けること前面に
  2. 責任と範囲を明確に
  3. 継続できるように
  4. 収支バランスを図る
  5. 税で社会に貢献する

・ワークショップ開催の合理的な側面
  1. マニュアル化して誰でもわかる(開催できる)ように
  2. レビューと改善を行なう

・ワークショップ開催の俗人的な側面
  1. メソッドやガイダンスとして余白に表現する
  2. 人間力によるOJTを行なう



◇脇阪善則氏 - 『UX TOKYOとワークショップ - サード・プレイスとしての機能と役割』

『ユーザエクスペリエンスのためのストーリーテリング』の翻訳者です。非常にためになる本で、たびたびお世話になっております。今回は『UX TOKYO』を基点として、ワークショップの機能と役割について述べていました。特に印象に残ったのは、ワークショップを開催・洗練させていく中から非常に具体的な成果物を作り出す、という展望に関する話です。私にも計画的にものを見る視野が欲しいと思いました。

以下、メモ。

・ワークショップとは
  1. 本の学びを実践する場
  2. 実践の場
  3. インプットした知見を消化してアウトプットする場
  4. 新しいことに挑戦する場

・ワークショップを通して経験の蓄積ができる
  1. 実施
  2. デザイン発想
  3. フレームワーク化
  4. 技術仕様化



◇浅野 智氏 - 『企業にHCDを根付かせるワークショップとその開発』

『何かを教える』ということと『教えるということについて責任を持つ』という点について、非常に印象を受けました。私の持っている価値観に「『何をすればいいか?』よりも『何故そうしようと考えるのか?』という、その人の持っている行動原理や価値観に触れたり想像できることが非常に重要である」 …こんなものがあるのですが、この講演はこの点について強く働きかけるものでした(あくまで私の印象です)。また、講演内容には実用的な内容も多々含まれており、学びがたくさんありました。

なお、特に強く印象に残ったのは、HCDを教えるためには7回のワークショップが必要ということと、この点については絶対に譲れないというものでした。つまり、「3回でやってくれませんか?」というお誘いがあっても、HCDを教えるためには7回のワークショップが必要なため、断固として無理、という話です。『断る』『譲らない』という行動や価値観について、私にはここまでの力強さがありません。だから印象に残りました。

また、ワークショップの構成についての考え方も参考になりました。
  1. 概論について講義し、以降の学びのメンタルモデルを形成する(これは絶対必要)。
  2. 全体像がわかるワークショップを行なう。
  3. 以降は個別のテーマについてワークショップ。結果がでやすいものから行なう。

その他、メモしたポイント

  • ワークショップは楽しいことが大事。
  • ワークショップを作る時はただ思いついたものではなく、もっと長いスパンで教えているようなものを落とし込む。
  • ワークショップでの学びが根付くところとそうでないところがある。社内に強力な推進者がいるところなら根付くが、トップダウンでやっても定着しない。






後援者の皆様, パネルディスカッション発表者の皆様, 主催者の皆様, ありがとうございました。

『第9回情報デザインフォーラム - 情報デザインのワークショップ』感想

2012/05/04に開催された第9回情報デザインフォーラムの感想です。情報デザインのワークショップというテーマについて、8人の講演者による発表と学生によるパネルディスカッションがありました。以下はフォーラムに参加した感想です。

あと、『情報デザインの教室』は買っておこうと思いました。


◇情報デザイン及びUXの価値が高くなっている

山崎氏が体験とビジネスを結びつけることについて述べていらっしゃいました。木村氏はインフォグラフィックスがコミュニケーションの手段にとどまらず、プロダクトの領域に進出しているという話をなさっていました。浅野氏は「PCをすっとばしてスマホを手にするユーザが増えており、彼らは利用するコンテキストに合わないプロダクトをわざわざ使おうとしない」という話をなさっていました。

また、元IDEOのElle Lunaさんが来日した際におっしゃっていた話の中に「市場の評価におけるデザインの割合が大きくなっている」というのがありました。「そんなところにまでデザインの概念とその重要性が広まっているのか」という印象とともに深く印象に残ったのですが、前述したようにこのフォーラムの中でもデザインの価値が繰り返し取り上げられており、デザインという概念がビジネスのさまざまな領域に織り込まれ始めているのだということを改めて認識しました。



◇人間中心設計とワークショップは親和性が高い

ざっくりとした言い方になりますが、協働するという点において、これらは非常に似ていますよね? 互いの(前向きな)コミュニケーションをとおして成果物を制作するというプロセスは同じなわけです。それから、(けっこう大事なことなのですが)成果物を評価する基準も何か似ているような気がします。

私がメインとしている業務系のソフトウェア開発の場合、利用者とプロダクトの所有者と開発者の利害は著しく一致しないという問題があり、求められるコミュニケーションのベクトルがワークショップのそれとは違うのです。予算と納期と品質と機能があって、それぞれについて三者間での落としどころをひたすら探すというか …そういう観点から見ると、情報デザインとワークショップの親和性の高さは羨ましいです。


◇ワークショップの開催目的をはっきりとさせることが重要

ワークショップをとおして考え方を学ぶ、という話であればワークショップはそれ自体が目的となります。他方、ワークショップをとおして何か有意義な成果物が作りたい、という話であればワークショップはあくまで手段ということになります。前者であればワークショップの参加者に求められるのは参画する意識と必要最低限の予備知識ですが、後者であれば参画する意識よりはきちんとしたアウトプットを出せるだけのスキルが重要になるでしょう。ワークショップを開催するにあたって、これらの区別を行わないということはあまりないでしょうが、もししなければ散漫になってしまうのかな? と思いました。


◇主催者・参加者それぞれがワークショップについての学びを持ち帰ることが重要

ここでいう学びは『ワークショップについての学び』です。

ワークショップ自体はそこそこの歴史があるものであり、学びの手法として強く根付いているものだと思います。そういう意味では、ワークショップというものはなかなかに語りつくされており、それが何であるかという議論も一通り出尽くしているのかな、とも思います。

一方で、このフォーラムの講演でもワークショップにおける体験や経験が未分化のまま語られることがあったりして、まだまだ発展途上で未知の領域が沢山あり、だからこそワークショップについて学ぶことが重要なのかな、と思いました。

ワークショップに参加したけど「あまり発言できなかったし、得るものが余りなかったな~」という経験や、ワークショップを主催したけど「みんなピンと来ない顔をしていたし、ディスカッションも盛り上がってなかったな~」という経験など、こういったものをうまく整理してくれるような概念やプラクティスが揃ってきてくれるといいと思います。


◇ワークショップはあくまで学習の一手段であり、銀の弾丸ではない

ワークショップが何であるかという話や、ワークショップの持つ特性、ワークショップの持つポテンシャルなど、いろいろな観点からワークショップについて語られていました。そういったメリットについての話の総体として、ワークショップは座学を超える学習の手段なのだな、という感覚を抱きました。他方、ワークショップが持つ中毒性を温泉に例えて警告を発している方もいました。また、ワークショップを通して学んでも、それが定着しない組織がある、という発言もありました。で、良いところと悪いところをまとめると、ワークショップが有益であることは間違いないが、それは適切な使い方があってこそなのだと思いました(当たり前のことですよね)。

また、ワークショップは協働という形態を取るので学びを共有することは必須です。なので個々人が学びを深堀りする必要があるテーマの場合や、学びに個人差が生じやすいようなテーマの場合、ワークショップは逆に弱いのかな? とも思いました。








後援者の皆様, パネルディスカッション発表者の皆様, 主催者の皆様, ありがとうございました。

2012年5月2日水曜日

セーフウェア - 安全・安心なシステムとソフトウェアを目指して


この本はコンピュータ制御システム及び、コンピュータ制御システムに携わるエンジニアのための本です。

私が関わる業務領域の中には、安全性のためだけにここまで論理を組み上げて品質を作りこむ必要がある領域というのはありませんでした。

業務系のシステムでは(要件が人の生死に関わらないという範囲において)品質や安全性は、コストに対してトレードオフさせるのが一般的です。そして、大抵の業務系システムの要件は人の生死には関わりません。私が携わってきたシステムの中にもそのようなものはありませんでした。おそらく、今後もないでしょう …ですが、ここまで知っておいて損することはないとも思います。

分析や設計をする際、その思考プロセスの根底に安全性や信頼性が横たわっており、それを見通しながら作業を進めることができるのと、そうできないのとでは、成果物のできあがりに明らかな差がでるように思えてならないからです。私は設計に品質を織り込みたい性格なので、存在を知った瞬間にこの本を即買いしました。

いわゆるSIerが取り扱うシステム・業務領域というのは、この本で対象にしているものとは違います。ですが、安全設計に係る考え方を知っていることは全く損にならないし、ここで学んだことをシステム構築に応用できたなら、それは素晴らしいことです。


◇どういう本か

コンピュータ制御システムなどの中に入っているソフトウェアが対象となっています。その中でも、システムのエラーが人の生死に直接的に関わるようなシステムに特化した内容になっています。なので、エンタープライズ・ビジネス系のそれとはだいぶ毛色が違います。

例として、信号の制御システムを考えて見ます。

車の運転中に全ての信号がいきなり真っ暗になったら困りますよね? で、交差点とか横断歩道を越える際にはものすごい神経をすり減らしながら走り、精神ががっつり削られたくらいにやっと家にたどり着いて、調べたら「初歩的なエラーでソフトが落ちたらしいんですが、原因が分からないんですよね。あの後に再起動したら、なんかうまく動いているので、しばらくはこのまま監視しようと思います。トラブル発生時のログなんてとってないし、まあ、再現したらそのときに調べますよ」とかいう話だったとします。今まで事故を起こさずやってこれたことに感謝すると同時に、明日からの自動車の運転に深く絶望し、同時にこのシステムに携わる全ての人間をぶっとばしてやりたい、という感じになりますよね?

そういったクリティカルなシステムをつかさどるようなソフトウェアを安全に構築するための理論や方法論までを包括的に述べたのがこの本です。


◇内容

人の生死に関わるようなシステムの設計方法を述べるだけあって、コンピュータ制御システムの安全について詳細に論じられています。大体、次のような感じです。

  1. リスクの概念をコンピュータに結び付ける。
  2. これをコンピュータにまつわる誤った神話に関連付け、解きほぐす。
  3. 事故の原因におけるシステムとヒューマンエラーの関係から、人間の役割について論じる。
  4. 工学的観点からシステム安全について述べる。
  5. システムを安全に作成・運用するためのプロセスについて論じる。
  6. ハザードを分析し、要求分析フェーズで検討するための手法について述べる。
  7. 安全性のための設計やインタフェースの設計について論じる。


◇付録

システムハザードを伴う10の重大事故のレポートが巻末に付録として収録されています。チャレンジャー号・ボパール・チェルノブイリといった有名なものから、Therac-25・セベソといったものまで多岐にわたります。

中でも、Therac-25のレポートは衝撃的です。この治療機器には、特定の条件下で起きるソフトウェアのエラーにより、致死量の放射線を患者に浴びせてしまうというハザードがありました。ですが、Therac-25の発売直後には誰もそんなことは知りませんでした。だから、致死量の放射線を浴びせたとしても治療者は気づきません。そして、致死量の放射線を浴びてしまった患者は、患部に強い痛みを感じたまま家に帰り、数日後に原因不明のまま死んでしまうのです。そうやって何人かの死者を出した後、一連の死者はシステムハザードの犠牲者であり、犯人はTherac-25、原因はソフトウェアのバグ、いうことが明らかになります。

患者が体調不良や違和感を訴える一方で、治療医や製造業者はシステムが抱えている危険を認識していなかったりします。認識不足、ちょっとしたミス、簡単な見落としや思慮不足が重篤事故に繋がり、人の生き死にに直結するのです。そう考えると、非常に恐ろしい話です。


◇最後に

この本の対象に業務系システムが含まれていないということは書きました。それはこの本の論旨からも明らかです。しかし、これは、この本がシステムの用途と人の生死がリンクするようなシステムについてしか取り上げていないだけ、という話であるとも考えます。

業務系のシステムの中には、「これ本当に運用設計したの? あと、この挙動バグじゃない? 問題ないの? これ、詳細設計とか書くようなプロジェクトじゃなかったっけ? ところで、テストの資料は? え? もう残ってないの? じゃあ、これが要件を満たしていることは誰が担保してるの? えー? それは…」という、いろいろと酷いシステムがあって、運用チームが神経をすり減らしながらだましだまし動かしているようなものだってあるわけです。ある意味で、人が緩やかに死んでいくようなシステムです。

そういうシステムを見ると悲しい気分になります。たしかに、業務系のシステムは要件的に人の命には直結しないものばかりですが、システムのライフサイクルと携わる人達全てにまで視野を広げれば、(例えこの本が私のようなエンジニアを視野に含めていないとしても)この本が私には無関係である、とは言い切れないのです。

私は、デベロッパー・プロダクトのオーナー ・ それからユーザー ・ その他もろもろの関係者が心穏やかにすごせるようなシステムを作りたいし、そのためには設計に品質を織り込むというアプローチは非常に有効だと考えているし、そのときにこの本の知識があれば役に立つんだろうな、と思っているわけです。




各章を読んでノートしていきます。