2013年1月20日日曜日

Scrum Alliance Reional Gathering Tokyo 2013『野中郁次郎氏 : 特別講演 知識創造企業』ノート(後半)

2012/01/16に開催されたScrum Alliance Reional Gathering Tokyo 2013『野中郁次郎氏 : 特別講演 知識創造企業』のノートです。こちらは後半部分です。



(前半の続き)

■野中氏の講演

◆実践知・ジャッジメント・コンテキスト

◇全てを総合するリーダーシップ = フロネティックリーダーシップ
・フロネシスの語源
 →ギリシャ語
・実践知
 →賢慮(Prudence)と実践的な知恵(Practical Wisdom)を併せたもの
 →文脈で使い分けられる
・ハーバードビジネスレビューにこれに関する論文を書いたとき、日本の経営者を中心に調査した
 →こういうのもは日本が得意だと思う
 →→日本の組織には、一丸となって知を生み出していくというDNAがあるのではないかと思っている

◇知の生態系は不確実
・そんな中でのイノベーションには実践知のリーダーシップが必要
・ワイズリーダー
 →さまざまな円環の中で持続的に知を作り続けるリーダーシップ
 →文脈を読みながら絶えずSECIプロセスを回し、触発・支援・蓄積ができるリーダーシップ
・個別を離れた普遍の知はなかなか存在しない
 →観念論としてはあるかもしれないが、実践論としては?
 →「何が本当か?」はその都度のコンテキストの真っ只中で判断できないといけない
 →→身体性を伴うということはそういう意味で重要
・個別具体の文脈で"Just Right"な判断をしていかないといけない
 →単なる改善ではない
 →大きなビジョンやイデアが関わってくる
 →→そういう志を持ちつつ、現実の中でのジャッジをする必要がある
・最初から演繹的な絶対的な真理からブレイクダウンしていくのではない
 →これはウォーターフォール的かもしれない

◇実践知の考え
・どういうものか
 →『イデア(顧客の思い)がある』けど…
 →『それがあると信じる』けど…
 →現実の中で一緒になって、皆の英知を結集してベターに向かってやっていく
・行為の真っ只中で考える
 →動きながら考える
 →そして文脈に即したジャッジをする
・DecisionではなくJudgement
 →マネジメントの領域ではDecisionだと言われてきた
 →→これはコンピュータでもできるもの
 →Judgementは背後にあるコンテキスト(関係性)の読み
 →→全ては読みきれない
・なぜ読みきれないのか
 →その都度の動きの中での関係性が、背後にあるから
 →→お互いのインタラクションを通じて、Assumptionを豊かにしながら明らかにしていく必要がある
・Contextual JudgementとTimely Balancing
 →事象の背後にある関係性は見えない
 →→だから、現実の只中でコンテキストに応じたジャッジメントをすることが重要
 →→それを適時・絶妙なバランスでやらないといけない



◆フロネティック・リーダーシップの6つの能力

◇フロネティック・リーダーシップについて
・何が必要か
 1. 何が"Good"なのかを作る能力
 →→スパイラルをどこでやめるかとか
 →→志の大きさに依存する
 2. 場をタイムリーに作る能力
 3. 現実を直視、直感する能力
 4. 直感の本質を概念・言語化する能力
 5. スパイラルして"やりぬく政治力"
 →→イノベーションはおそらく政治プロセス
 →→現実の只中でしかるべきタイミングでジャッジする能力
 →アリストテレスのいう中庸
 →→グレーなものをコンテキストを読みながら判断する能力
 6. 実践知を組織化する能力
 →→実践知を組織に埋め込む力
 →→全員がリーダーになるまでリーダーシップを高める力

◇(アジャイルを含めた)プロジェクトで重要なこと
・何が重要か
 →人が育つこと
 →リーダーがたくさん育つこと
 →→自立分散型のリーダーシップ(Distributed Leadership)

◇1. 何が"Good"なのかを作る能力
・「何が善いか」についてはいろいろ議論がある
・アリストテレス
 →「本質的に人はいいことをしたい」
 →「世の中の価値には、絶対に手段にならない、それ自体を追求する価値があるものがある」
 →幸福とか自己実現
・確実に唯一最善のものに到達できるという方法はない
・マッキンタイア
 →「絶えずエクセレンスを追求する、そのプロセス自身が"Good"」
 →職人の道
 →→ベターに向かって無限にイデアを追求するという姿勢
・人は理想を追求する
 →達成できないかもしれないけど、達成しようとする
 →→だから人間は限界を超えて知を作る
・スティーブ・ジョブズ
 →「我々の心を高鳴らせるものはリベラルアーツと結びついたテクノロジーであり、人間愛と結びついたテクノロジー」
・本田宗一郎
 →「どの国境、どの人種の上を越えても、いつだれがどこで考えてもそうなくちゃならん、ということが世界的視野」
 →「国境を越えて、人類として、人間である限りは、必ず納得できるような、理論の持ち主になってもらいたい」
・ホンダの本田宗一郎、Panasonicの松下幸之助、シャープの早川徳次
 →創業者はみな技術者

◇2. 場をタイムリーに作る能力
・文脈に応じてバランスをとる・共有する
・いかにバランスを取るかがリーダーの仕事

◇3. 現実を直視、直感する能力
・日々変化する現実を全身で理解する能力
・全ての五感を総合して、相手の視点に合わせる
 →その上で共感する
 →そして、彼の視点から次の仮説を立てる
・全ての五感を総合する
 →そうやって瞬時の想像力や判断力を高める
 →そうすることで研ぎ澄まされた共通感覚を得ることができる

◇4. 直感の本質を概念・言語化する能力
・それを大きな物語にして共有することが重要
 →大局観が必要
 →→Historicalな歴史観が重要になる
・物語はチームを元気付ける
 →会話をしながらコンセプトやストーリーを作っていく

◇5. スパイラルして"やりぬく政治力"
・周囲を説得して価値創造にまい進する
 →説得できる演説力が大切になってくる
 →→「一般通念を打破する新しいビジョンはレトリックに頼らざるを得ない」
・スティーブ・ジョブズの現実歪曲空間

◇6. 実践知を組織化する能力
・個人の全人格に埋め込まれているフロネシスを組織に埋め込む
 →実践の中で自律分散的な体系化・伝承・育成を行う
・そうすれば何が起こっても弾力的に対応できるしなやかな組織ができる
 →そのためには評価システムが適応している必要がある
 →あるいは徒弟制度
・意図的に大きな挑戦を与えて飛躍的成長をしてもらう
 →絶えずフィードバックを得るようにする
 →複数のメンターを付ける
 →→そうやって仕事の型を共有させる
・ホンダの考え方
 →「全員が本田宗一郎になろう」

◇シュンペーターが指摘していた問題から考えてみる
→「組織は個を殺すから崩壊するしかない」
・そうではない組織のあり方があるのでは?
 →個をクリエイティビティする組織
 →組織の知をもっと大きくするような組織
 →→そのためのやり方があるのではないか?
・そのために必要なリーダーシップが1から5
・組織知にするためには6がなければならない



◆組織・フラクタル・ミドルアップダウン

◇最近の組織構造はマトリックス型が多い

・部分最適で終わるのではないか?という話がある
◇そうではない組織構造のケース
・ダイハツのケース
 →新製品開発に辺り全員転籍
 →→帰る場所はどこにもない
 →人事権はPLである部長が持つ
 →→結果として人が育った
 →→→これを受けて組織全体の再編へ
・JALのケース
 →アメーバ経営
 →→時間辺り付加価値を全面的に導入
 →→→組織の末端が社長と同じことを考える
 →予算の執行権を経営企画から経営管理部へ
 →フラクタルな組織経営になっている
・アメリカ海兵隊のケース
 →フラクタルな組織
 →→パイロットは地上部隊のリーダーを1年経験していないといけない
 →→全員でライフルマンをバックアップする
 →仲間(個)のために戦う
 →→お互いの信頼関係が非常に重要
 →→→数人で一個小隊を撃破することもある

◇自立分散型実践知経営
・フラクタルな組織は絶えず環境と共振する
 →組織が1つの個であるかのように振舞う
・クロネコヤマト
 →社長曰く「うちの社長はセールスドライバーだ」
 →→彼らが知の最前線にいて、即座に対応できる
・マージナルマン
 →境界にいて絶えずコネクトしている人が重要

◇フラクタルな組織ではミドルアップダウンが重要になる
・トップダウンやボトムアップではない
 →ミドルが非常に重要な役割を果たすようになる
・Cisco
 →"Lead from the middle."
 →社内SNSで知をアドバタイズしながら、知を絶えずリンクさせている
 →→Distributed Leadership
・明治維新もミドルアップダウンの方式になっている

◇アジャイルやスクラムもこのコンテキストで見るとどうなるか
・組織的なイノベーションやDistributed Leadershipを作ることができる、1つのプロセス

◇コミュニティと知の関係
・コミュニティが内に向かうと知は枯渇する



◆最後に

◇実践知は非常にリスキー
・でもベターを追求するためには必要
 →だからCourageが大事
・ロロ・メイ
 →「Courageはすべての徳の源泉である」
・本田宗一郎
 →「試す人になろう」

◇賢慮と実践知のリーダー : 知的体育会系
・ベターを無限に追求する人
 →現実の中で実践的推論を重ねて真理に近づいていく






野中郁次郎様、平鍋健児様、Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013 実行委員会様、翔泳社様、ありがとうございました。

2 件のコメント:

  1. 貴兄の投稿をTweetさせていただいたところ、フォロワーから
    「ベターに向かって無限にイデアを追求」は、「イデアに向かって(あると信じて)無限にベターを追求」では?
    との指摘をもらいました。同感でしたのでコメントさせていただきました。

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  2. ありがとうございます。

    手持ちの資料を確認して、適切な表現に改めたいと思います。

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