2013年1月20日日曜日

Scrum Alliance Reional Gathering Tokyo 2013『野中郁次郎氏 : 特別講演 知識創造企業』ノート(後半)

2012/01/16に開催されたScrum Alliance Reional Gathering Tokyo 2013『野中郁次郎氏 : 特別講演 知識創造企業』のノートです。こちらは後半部分です。



(前半の続き)

■野中氏の講演

◆実践知・ジャッジメント・コンテキスト

◇全てを総合するリーダーシップ = フロネティックリーダーシップ
・フロネシスの語源
 →ギリシャ語
・実践知
 →賢慮(Prudence)と実践的な知恵(Practical Wisdom)を併せたもの
 →文脈で使い分けられる
・ハーバードビジネスレビューにこれに関する論文を書いたとき、日本の経営者を中心に調査した
 →こういうのもは日本が得意だと思う
 →→日本の組織には、一丸となって知を生み出していくというDNAがあるのではないかと思っている

◇知の生態系は不確実
・そんな中でのイノベーションには実践知のリーダーシップが必要
・ワイズリーダー
 →さまざまな円環の中で持続的に知を作り続けるリーダーシップ
 →文脈を読みながら絶えずSECIプロセスを回し、触発・支援・蓄積ができるリーダーシップ
・個別を離れた普遍の知はなかなか存在しない
 →観念論としてはあるかもしれないが、実践論としては?
 →「何が本当か?」はその都度のコンテキストの真っ只中で判断できないといけない
 →→身体性を伴うということはそういう意味で重要
・個別具体の文脈で"Just Right"な判断をしていかないといけない
 →単なる改善ではない
 →大きなビジョンやイデアが関わってくる
 →→そういう志を持ちつつ、現実の中でのジャッジをする必要がある
・最初から演繹的な絶対的な真理からブレイクダウンしていくのではない
 →これはウォーターフォール的かもしれない

◇実践知の考え
・どういうものか
 →『イデア(顧客の思い)がある』けど…
 →『それがあると信じる』けど…
 →現実の中で一緒になって、皆の英知を結集してベターに向かってやっていく
・行為の真っ只中で考える
 →動きながら考える
 →そして文脈に即したジャッジをする
・DecisionではなくJudgement
 →マネジメントの領域ではDecisionだと言われてきた
 →→これはコンピュータでもできるもの
 →Judgementは背後にあるコンテキスト(関係性)の読み
 →→全ては読みきれない
・なぜ読みきれないのか
 →その都度の動きの中での関係性が、背後にあるから
 →→お互いのインタラクションを通じて、Assumptionを豊かにしながら明らかにしていく必要がある
・Contextual JudgementとTimely Balancing
 →事象の背後にある関係性は見えない
 →→だから、現実の只中でコンテキストに応じたジャッジメントをすることが重要
 →→それを適時・絶妙なバランスでやらないといけない



◆フロネティック・リーダーシップの6つの能力

◇フロネティック・リーダーシップについて
・何が必要か
 1. 何が"Good"なのかを作る能力
 →→スパイラルをどこでやめるかとか
 →→志の大きさに依存する
 2. 場をタイムリーに作る能力
 3. 現実を直視、直感する能力
 4. 直感の本質を概念・言語化する能力
 5. スパイラルして"やりぬく政治力"
 →→イノベーションはおそらく政治プロセス
 →→現実の只中でしかるべきタイミングでジャッジする能力
 →アリストテレスのいう中庸
 →→グレーなものをコンテキストを読みながら判断する能力
 6. 実践知を組織化する能力
 →→実践知を組織に埋め込む力
 →→全員がリーダーになるまでリーダーシップを高める力

◇(アジャイルを含めた)プロジェクトで重要なこと
・何が重要か
 →人が育つこと
 →リーダーがたくさん育つこと
 →→自立分散型のリーダーシップ(Distributed Leadership)

◇1. 何が"Good"なのかを作る能力
・「何が善いか」についてはいろいろ議論がある
・アリストテレス
 →「本質的に人はいいことをしたい」
 →「世の中の価値には、絶対に手段にならない、それ自体を追求する価値があるものがある」
 →幸福とか自己実現
・確実に唯一最善のものに到達できるという方法はない
・マッキンタイア
 →「絶えずエクセレンスを追求する、そのプロセス自身が"Good"」
 →職人の道
 →→ベターに向かって無限にイデアを追求するという姿勢
・人は理想を追求する
 →達成できないかもしれないけど、達成しようとする
 →→だから人間は限界を超えて知を作る
・スティーブ・ジョブズ
 →「我々の心を高鳴らせるものはリベラルアーツと結びついたテクノロジーであり、人間愛と結びついたテクノロジー」
・本田宗一郎
 →「どの国境、どの人種の上を越えても、いつだれがどこで考えてもそうなくちゃならん、ということが世界的視野」
 →「国境を越えて、人類として、人間である限りは、必ず納得できるような、理論の持ち主になってもらいたい」
・ホンダの本田宗一郎、Panasonicの松下幸之助、シャープの早川徳次
 →創業者はみな技術者

◇2. 場をタイムリーに作る能力
・文脈に応じてバランスをとる・共有する
・いかにバランスを取るかがリーダーの仕事

◇3. 現実を直視、直感する能力
・日々変化する現実を全身で理解する能力
・全ての五感を総合して、相手の視点に合わせる
 →その上で共感する
 →そして、彼の視点から次の仮説を立てる
・全ての五感を総合する
 →そうやって瞬時の想像力や判断力を高める
 →そうすることで研ぎ澄まされた共通感覚を得ることができる

◇4. 直感の本質を概念・言語化する能力
・それを大きな物語にして共有することが重要
 →大局観が必要
 →→Historicalな歴史観が重要になる
・物語はチームを元気付ける
 →会話をしながらコンセプトやストーリーを作っていく

◇5. スパイラルして"やりぬく政治力"
・周囲を説得して価値創造にまい進する
 →説得できる演説力が大切になってくる
 →→「一般通念を打破する新しいビジョンはレトリックに頼らざるを得ない」
・スティーブ・ジョブズの現実歪曲空間

◇6. 実践知を組織化する能力
・個人の全人格に埋め込まれているフロネシスを組織に埋め込む
 →実践の中で自律分散的な体系化・伝承・育成を行う
・そうすれば何が起こっても弾力的に対応できるしなやかな組織ができる
 →そのためには評価システムが適応している必要がある
 →あるいは徒弟制度
・意図的に大きな挑戦を与えて飛躍的成長をしてもらう
 →絶えずフィードバックを得るようにする
 →複数のメンターを付ける
 →→そうやって仕事の型を共有させる
・ホンダの考え方
 →「全員が本田宗一郎になろう」

◇シュンペーターが指摘していた問題から考えてみる
→「組織は個を殺すから崩壊するしかない」
・そうではない組織のあり方があるのでは?
 →個をクリエイティビティする組織
 →組織の知をもっと大きくするような組織
 →→そのためのやり方があるのではないか?
・そのために必要なリーダーシップが1から5
・組織知にするためには6がなければならない



◆組織・フラクタル・ミドルアップダウン

◇最近の組織構造はマトリックス型が多い

・部分最適で終わるのではないか?という話がある
◇そうではない組織構造のケース
・ダイハツのケース
 →新製品開発に辺り全員転籍
 →→帰る場所はどこにもない
 →人事権はPLである部長が持つ
 →→結果として人が育った
 →→→これを受けて組織全体の再編へ
・JALのケース
 →アメーバ経営
 →→時間辺り付加価値を全面的に導入
 →→→組織の末端が社長と同じことを考える
 →予算の執行権を経営企画から経営管理部へ
 →フラクタルな組織経営になっている
・アメリカ海兵隊のケース
 →フラクタルな組織
 →→パイロットは地上部隊のリーダーを1年経験していないといけない
 →→全員でライフルマンをバックアップする
 →仲間(個)のために戦う
 →→お互いの信頼関係が非常に重要
 →→→数人で一個小隊を撃破することもある

◇自立分散型実践知経営
・フラクタルな組織は絶えず環境と共振する
 →組織が1つの個であるかのように振舞う
・クロネコヤマト
 →社長曰く「うちの社長はセールスドライバーだ」
 →→彼らが知の最前線にいて、即座に対応できる
・マージナルマン
 →境界にいて絶えずコネクトしている人が重要

◇フラクタルな組織ではミドルアップダウンが重要になる
・トップダウンやボトムアップではない
 →ミドルが非常に重要な役割を果たすようになる
・Cisco
 →"Lead from the middle."
 →社内SNSで知をアドバタイズしながら、知を絶えずリンクさせている
 →→Distributed Leadership
・明治維新もミドルアップダウンの方式になっている

◇アジャイルやスクラムもこのコンテキストで見るとどうなるか
・組織的なイノベーションやDistributed Leadershipを作ることができる、1つのプロセス

◇コミュニティと知の関係
・コミュニティが内に向かうと知は枯渇する



◆最後に

◇実践知は非常にリスキー
・でもベターを追求するためには必要
 →だからCourageが大事
・ロロ・メイ
 →「Courageはすべての徳の源泉である」
・本田宗一郎
 →「試す人になろう」

◇賢慮と実践知のリーダー : 知的体育会系
・ベターを無限に追求する人
 →現実の中で実践的推論を重ねて真理に近づいていく






野中郁次郎様、平鍋健児様、Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013 実行委員会様、翔泳社様、ありがとうございました。

Scrum Alliance Reional Gathering Tokyo 2013『野中郁次郎氏 : 特別講演 知識創造企業』ノート(前半)

2012/01/16に開催されたScrum Alliance Reional Gathering Tokyo 2013『野中郁次郎氏 : 特別講演 知識創造企業』のノートです。いつもとは違う刺激や気付きがあって良かったです。こちらは前半部分になります。



■平鍋健児氏によるイントロダクション

◆野中氏の紹介

◇野中氏はスクラムと言う言葉を最初に作った人
・でもソフトウェア業界でスクラムと言う言葉がここまで使われていることは知らなかった
 →一昨年開催されたイノベーションスプリントで知った
・世界で最も影響力のあるビジネス思想家の1人
 →日本からオリジナリティのあるアイデアを発信している
 →本を英語でも書いている

◇ソフトウェアの大切なところ
・技術
 →これはもちろん大事
・人と人とのコミュニケーションのデザイン
 →マネジメントも含めて、これが大事

◇アジャイルが気付いたこと
・「どう"コミュニケート"したら、良いソフトができるのか」
 →アジャイル = ソーシャルなコミュニケーションパターンデザインの方法
 →→そこで使われているコミュニケーションデザインの方法について、始めて言及したのが野中氏



■野中氏の講演

◆はじめに

◇知識創造理論はアジャイルと関係なくやってきた
・イノベーションスプリントの基調講演の依頼を受けて、初めてつながりを知った
 →自分はそもそもコンピュータを使えない
・「アジャイルはソフトウェアの開発の話に留まらない」という話
 →聞いて納得するところがある
・アジャイルは組織変革のプロセスそのものにまで展開されつつある
 →アジャイルとスクラムというのは物凄く大きな話になっていくのではないかと思っている

◇マネジメントにはいろいろな切り口がある
・我々は知識ベースのストラテジックなマネジメント
 →今は戦略によっている
・戦略と組織は分離できない
 →戦略は人間が解釈して作り出すもの
 →戦術を実行するのは組織
 →→人間の解釈や実践・組織作りがないと戦略は成立しない
・戦略と組織を分けるという考えが、欧米では伝統的に強い
 →でも、いくらビューティフルな戦略を考えても実行できなければ仕方がない
 →→戦略と組織をダイナミックに統合するのがストラテジックなマネジメント

◇知識ベースのストラテジックなマネジメント
・これの大まかな枠組み = 絶えずイノベーションを生み出すようなコミュニティ
 →そこには大きな枠組みや大きな志がある
 →→"共通善"があるということ
・大きな枠組みを代表するのが企業ビジョン
 →それを具体的に組織全体に落とし込んだのがビジネスモデル
・いかにユニークな価値を顧客に創造するか?(価値命題)
 →これは非常に難しい

◇SECIプロセス
・「顧客にいかにユニークな価値を提供するかという命題」にどう応えるか
 →そのための知識を作り続けるのがSECIプロセス
・SECIプロセスとそれを支援するプラットホーム(場)の関係
 →顧客や自社の能力があって、知を利益に変化できる
 →→ここにコスト構造など勘案してビジネスの流れを作る
・これら全てをまとめるのがリーダーシップ(フロネシス)



◆経済モデル・完全情報・知識創造理論

◇20世紀は資本主義の時代
・アダムスミスの『神の見えざる手』
 →企業も個人も自分の利益を追求すればよい
 →→そうすると神の見えざる手が市場を媒介してバランスがとってくれる
 →個人利益の追求が社会の幸福につながるという考え
・その後の経済学を科学的にしたいという流れ
 →このなかで科学的・論理的なモデルが出来ていった
 →『神の見えざる手』を理論的に分析した
・完全情報という仮説の登場
 →互いが完全情報を持っていると仮定する
 →→そうすると、個々のプレーヤーの利益追求によって、論理的・数学的に市場がバランスする

◇「でも… 資本主義が社会の幸福につながるのか?」というのが今の時代
・カール・マルクス
 →このことを最初にいった人
 →「資本主義は資本の蓄積、さらなるお金を求めて永久運動するプロセス」
 →「これは格差をもたらすし、資本家と労働者の搾取モデルになる」
 →「だから階級をなくす革命が必要となる」
・ドラッカー
 →「21世紀は知識創造・ナレッジソサエティの時代」
 →知識というわけの分からないものを経済に落とし込むことが必要
・シュンペーター
 →イノベーションについて初めて言及した
 →「新古典派の考えるような均衡はない」
 →→「均衡ではなく、絶えざる均衡破壊がある。それがイノベーション」
 →→→イノベーションで資本主義を延命させるという考え方
 →マルクスとは対極にいる
・ハイエク
 →「マーケットは単なる競争の場ではない」
 →「顧客のニーズというのは定式化されていない」
 →→「完全情報なんていうものはそもそもない」
 →→→「いかにそういうものを発掘して形式的な知識につなげていくか」
 →→→→「マーケットはそういうものを発見する場」

◇完全情報になっていない部分とは何か
・我々の言葉なら暗黙知
 →『氷山のモデル』
 →→形式知は海に浮かぶわずかな部分
 →→水面下には膨大な暗黙知があり、それが知の源泉になっている
 →マーケットは知の創造の場

◇再びシュンペーター
・彼はある種のペシミズムを持っていた
 →「様々な知を組み合わせ均衡破壊をするのはは企業家・個人と銀行」
・これは組織化の時代になるとサイロ化していく
 →→そうやってできる官僚機構は創造的な個を殺していく
・「企業家が持っている、天職としての倫理を持つ資本主義」
 →ウェーバーが言っていたこと
 →これが金儲けに走るうちに失われてしまう
・それから民主主義にあるポピュリズム
 →ここから来る、ある種の平等感が企業家精神を劣化させてしまう
・そして資本主義は自ら崩壊して社会主義にいくという悲観
 →これがシュンペーターのペシミズム

◇知識創造理論の源泉
・我々が知識創造理論を思いついたのは…
 →組織はクリエイティブでありうると考えたから
 →組織は個の力を増幅させることができると考えたから
 →イノベーションが持続する組織がありうると考えたから
 →→そういう組織をどうやって作るか?という話
 →その1つとしてアジャイル・スクラムも大きな話につながっていくと思う

◇知識という、よくわからない財をどう概念化するか
・知の源泉は自分の主観
 →知は最初からあるものではない
 →知は客観的に与えられるものでも、簡単に組み合わせられるものでもない
・知は情報
 →自分の主観を真理に向かって社会的に正当化していくダイナミックなプロセス
 →→イノベーションは知識創造プロセスであるということ
・知は主観
 →知は人間が介在し解釈するからでてくるもの
・そのための知識創造プロセス = SECIモデル

◇知識創造理論の背後にある考え方
・理想主義のプラトン
 →演繹の父
 →→「真・善・美は天上にある」
 →→「イデアこそ真理」
 →→体は五感の塊だからそれを抜いて考え神に近づく
・実践主義のアリストテレス
 →帰納の父
 →→「イデアは地上にある」
 →→「実践が大事」
 →→BODYが大切
・イデアには簡単に到達できない
 →実践の中で考える必要がある
 →→SCRUMに似ている?
・プラトン以来の知の伝統が、西欧にはある
 →身体を否定して純化するというアイデアが強い
・知識想像の考えが影響力が持つのは何故か
 →そうではない考えが前提にあるから
 →→「身体の知がその前にあって、それが源泉なのではないか」



◆暗黙知・型式知・SECIプロセス・場

◇今まで強かった考え方
・主観的にものをいかに客観的に修正するか
 →客観的・科学的で形式的なものが知識
 →マネジメントもサイエンス
 →→それもいいけど…

◇マイケル・ポラニー
・「われわれは語れる以上のことを知りうる」
・「すべての知識は暗黙的、あるいは暗黙知に根ざす」
 →暗黙知の根底にはBelief(信念)がある
・知るということには個人がコミットしないといけない
 →全身全霊でコミットして、そこから生み出されるのが知
 →→だから信念と暗黙知、信念と理性の関係が必要
・アートとサイエンスがたえずダイナミックにバランスを取っていく中から知が生まれる

◇SECIモデルではどうなのか
・暗黙知と型式知がある
 →どちらが先かという話がある
 →→我々は初めに経験ありきではないかと考える
 →言葉は後
・暗黙知と型式知はおたまじゃくしのように円環する
 →相互に円環しながら膨らんでいくと言うイメージ
・トヨタの偉い人
 →「経験・知覚というのは、五感を想像すれば言語よりはるかに豊かなもの」
 →「でも言語も五感を豊かにする」
 →「両方が弁証する相補的な関係にある」
 →→「One wayではない」

◇暗黙知には瞬時に想像する要素がある
・でもそれは言語化できないといけない
 →言語化を積み重ねていくと言葉が豊かになっていく
・ワインの話
 →ソムリエの田崎氏が、暗黙知と形式知のスパイラルと同じようなことを言っている
 →「暗黙知を豊かにするには、いいワインを飲まないと駄目」
 →「そのとき感じたことをきちんと言語化しないと駄目」
 →「顧客とは一期一会なので、あった瞬間に現在・過去・未来を瞬時に想像できないと駄目」
 →→暗黙知があると予見能力が高まる
・でも暗黙知がたくさんあるだけでは駄目
 →それは言葉で語らなくてはいけない
 →→言語化を積み重ねることで、本質的な言語化(メタファーやレトリックを使った感覚的で詩的な言語)に至る
 →言葉にすることでスパイラルアップできる

◇SECIモデルでは
・共感→概念化→モデル化→実践のフェーズを経る
 →チームの知が組織の知へ
 →それが個に返りつき、さらに大きな知へ
・スパイラルにすることでもっと大きな知を想像できる
 →知を組織的に作るモデル

◇イノベーションはSECIスパイラルである
・共同化→表出化→連結化→内面化
・『相手の視点に立ったときの気付き』がないと本質には辿りつかない
 →本質は見えないので対話を通じて徹底的に考えないといけない
・それをコンセプトに凝縮して、関係付けして、量モデル化して、徹底的に分析する
 →そして技術・経験・サービスなどに価値化
 →→知を血肉化(内面化)して暗黙知化するということ
 →これは(結果として)組織や市場の新たな知を提供することになる
 →→これが新たな知を触発する
 →→→この新たな知をまた共同化する
・この反応を絶えず生み出す

◇この反応が生み出される状態をどうやって目指すか
・個人を殺さず、個人を活かし、個人ではできない知を創造する状態
 →こういったものをきちんと量モデル化しないといけない
 →→そのためには場(プラットホーム)が必要
・どういう場である必要があるか
 →コンテキストがあるもの
 →スパイラルアップするようなもの
・場の文脈は常に動いている
 →動いている文脈を共有できるのがダイナミックな場
 →そういう場で、皆の主観(Belief)を出す
・場を『皆の主観の場』にする
 →思いは言葉、言葉は形にしないと共有できない
・全人的に向き合うことで自己を超える我々の主観を生み出す
 →そのためにコンテキストがとても重要だということ

◇言葉の意味は、インタラクションの中でしか分からない
・「けっこうです」
 →"いる"ということ?
 →"いらない"ということ?
・言語学の関連性理論でのコンテキストの定義
 →「お互いの発話の解釈の手助けになる、聞き手の頭の中にあるAssumptionsのこと」
・アジャイルやスクラムもそう
 →顧客とのインタラクションの中でどう解釈するか
 →→ここでAssumptionが出てくる
 →→それを対話の中で共有しながら新しいAssumptionを作り出していく
・場 = 動いているコンテキストを共有するところ
 →そして知を生み出せるところ



◆身体・体験・ビジネスモデル

◇もう1つの重要なこと
・合意形成について
 →皆の主観(相互主観性)を作り上げるプロセス
 →→この中でベースになるのは身体

◇身体のタッチ(メルロ・ポンティ)
・身体感覚は相互に浸透する : 間身体性
 →右手で左手に触る
 →→しばらくすると左手からも右手を触っていることを感じる
・Embodied Mind(フランシスコ・ヴァレラ)
 →ボディとマインドは分けられない
・ミラーニューロンの発見
 →他人のしていることを自分がしていることのように感じる細胞
 →→模倣すると相手の意図が読める

◇共感の土台が重要だということ
・我々は生まれつき共感を覚えるように出来ている
 →マズローの自己実現理論の上には、コミュニティを作るというニーズがあるということ
・場の根底にあるもの
 →タッチも含めた身体的・精神的な触れ合い
 →→Socializationにおける重要な概念
・マーク・ザッカーバーグの提唱するエコシステム
 →「2人の人間のインタラクションの場(社会の基盤)を作る」
 →「それを繋げてもっと大きな場を作る」
 →「究極的には大きなイノベーションを作る」
 →「最終的に大きなHapinessにしていく」
 →「単なるマーケットを越えてコミュニケーションする関係を作る」
・でも組織が直接インタラクションすることはできない
 →実際にやるのは個人
 →→場を作ることとそれをスピーディにやることが重要

◇なんのために知を想像するのか
・最終的には"Common Good"
・もっと具体的には価値命題とビジネスモデル
 →いかにユニークな価値を創造するか
・ビジネスモデル = 知を価値・利益に変換すること
・ 「コトづくりのためのモノづくり」
 →ユニークなコトを提供するためにはユニークなモノが必要
・コトから入っていった方が大きな経験価値を与えるモノを作れる
 →音楽配信という経験価値を与えるためにモノを作る
 →→モノは体験を提供するためのもの
・「iPodというモノはマルチメディアの視聴という体験(コト)を与えるためのものである」
 →ここまでコンセプトをクリアにする
 →→これがわかれば、誰が顧客でどんなユニークな価値を提供するべきかが分かる

◇顧客にユニークな価値を提供するためには
・流通の最先端、顧客の最前線まで行ってきちんと意味を伝えないといけない
 →絶えず価値命題は変化している
 →→最先端で顧客から学び、それをフィードバックサイクルの中に入れる

◇ビジネスモデルについて
・知識ベースでの基本的な考え方
 1. いかなるコトを与えるのか
 2. 顧客は誰か
 3. 能力(能力・知力)はあるか
 →→(どこをクローズドに、どこをオープンにするか)
 4. コスト構造
 5. それで利益を考える
・(ポーターの)伝統的な戦略論での考え方
 →極力競争しない
 →差別化して参入障壁を高める
 →価格決定権を渡さない
 →→サプライヤのパワーを高め、顧客のそれを低める
・伝統的な戦略論の目的
 →既存の市場をいかに守るか
 →競争の少ない市場を作るかというもの
 →→こういうのもが支配的だった
・ドラッカーがそうではないといった
 →「企業のミッションは顧客の創造である」
 →→そういう意味で顧客創造・価値命題がでてくる

◇今はイノベーション系のビジネス思想家の影響力が高まっている
・ナレッジベースはいかにユニークな価値を提供するかのために有効
 →バリューは主観的
・戦略 = いかに1人1人の主観・価値を合意形成して自分の真理に向かって実現していくか
 →だから戦略以上に重要なのは組織であり人・最近、ポーターのコンサルティング会社が倒産した
 →価値命題が非常に重要になってきているということ

◇コトで世界を作る
・名詞ではなく動詞でとらえる
 →絶えずダイナミックな関係性を洞察する
 →動きながら考える
 →→SCRUMのプロセスがやろうとしていること
・ここで全てを総合するリーダーシップが重要になってくる

(後半へ続く)






野中郁次郎様、平鍋健児様、Scrum Alliance Regional Gathering Tokyo 2013 実行委員会様、翔泳社様、ありがとうございました。

2012年12月23日日曜日

『実践リーンスタートアップセッション at クックパッド』ノート


2012/12/18に開催された『実践リーンスタートアップセッション at クックパッド』のノートです。開始時刻に間に合わなかったため、前半15分ありません。ただ、ノートを見る文には本編自体は問題なく参加できたみたいです。



~10 Steps to Product/Market Fit -製品/市場フィットを達成する10のステップ~



■Problem/Solution Fit

◆1. Document your Plan A

◇第一ステップ = Plan Aを文章化すること
・一番最初にあるアイデアをドキュメントにする
・特に重要なポイント
 →企業家はもともとの素性としてものごとを整理だって考えるのが得意な人が多い
 →そういう意味でもアイデアをきちんと文書化するのは有効

◇こういったものの文書化はスタートアップ以外の企業でもやっている
・そういう企業はビジネスプランや事業計画を書く
 →形こそ違えどスタートアップと同じようなものを文書化している
・「今日の会場でビジネスプランや事業計画を書いたことがある人は?」
 →「それが本当に楽しくてしょうがなかった人は?」
 →→(ほとんどいない)
・ビジネスプランや事業計画というのは、作りこむのがPainfulだということ
 →しかも作れと命令した人に限って最後まで読まない

◇ビジネスプランや事業計画のよくないところ
・分からないことを想定して作りこんでいかないといけない
 →空想の産物になりがち
 →→リアリティを反映しているというよりは、そうなる傾向がある

◇Lean Canvas
・「事業計画はなくて… でも事業計画で求められているコアの部分だけを1ページに抽出してまとめ込んでいこう」
 →「それをビジネスモデルの形にしよう」
 →→そのビジネスモデリングのやり方がLean Canvas
・Lean Canvasが要素としているもの
 →ビジネスを実際にやっている人が見ればすぐ分かるようなもの
・強み
 →コアになるような前提条件などを非常にスピーディにまとめることができる
 →1ページに収まるものなのですぐにできる
・Lean Canvasは自分が作ったもの
 →だが、全くオリジナルなものではない
・ビジネスモデルキャンバスを基にした
 →それを調整してリーンキャンバスにした

◇なぜBusinss Model Canvasを作り変えたのか
・「どうして変えた変えた?」「根拠を教えてくれ」
 →よく質問を受ける内容の1つとして聞かれる
・アクショナブル(アクションをとり易いよう)に変えている
 →これが要点
・もっと知りたい人は…
 →私のブログを見れば1000ページくらいかけて説明している

◇ここまでが第1ステージ
・ビジョンを捉えるイメージで


◆2. ?

◇Product-Vision-Strategy
・アントレプレナーはアイデアが浮かぶとどうなるか
 →すごくクリアなシグナルとして何かを感じる
 →3つのレイヤに分けてそのアイデアを扱う
 →→これは知らずにをやっていると思う
・3つのレイヤ
 →Product
 →Vision
 →Strategy
 →→これがピラミッドのような構造になっている

  /\   ← Product
 /__\  ← Vision
/____\ ← Strategy

◇アントレプレナーの人にありがちな失敗
・このピラミッドを出来るだけ早く上にたどり着きたい
 →プロダクトを急いでしまう傾向がある
 →→ビジョンやストラテジーを考えることに、充分に時間を取っていないということ
・ビジョンやストラテジーは重要
 →この2つはピラミッドの基礎をなす部分
・ビジョンはだいたい誰でも考えていると思う
 →でも、ビジョンだけでは充分ではない

◇facebookの例
・結果的にソーシャルネットワークで最大のプレイヤーになった
 →facebookと同じようなビジョンを持った人達は他にもいた
・ではfacebookは何が違ったのか
 →Howの部分が違う
 →→「どういう風にビジョンを実現していったのか」が違う



■Product/Market Fit

◆3. Hone in process on early adopters first

◇facebookでさえも最初はアーリーアダプター中心にやっていた
・「いつかはfacebookのようなメインストリームの会社やプロダクトを作りたい」
 →スタートアップをやっている人はそう思う
 →だがfacebookも最初からそうだったわけではない
・facebookはまずハーバードの大学生をアーリーアダプターとした
 →ここでビジネスモデルを定義していった
 →→そういう過程をふんだ
・アーリーアダプターが誰かによって、ビジネスモデルは大きく展開する
 →これはリーンキャンバスを見てもわかる
・チャネルもプロダクトもソリューションもレベニューストリームも大きく変わる
 →アーリーアダプターがどういう人達なのか見極めることが大事

◇Geoffrey Moore "Crossing Chasm"
・アーリーアダプターまでと、そこからの拡大
 →この間には大きなギャップがある

◇一番初めはアーリーアダプターにきちんとフォーカスする
・「メインストリームに出ていきたい」「大きくて皆に使ってもらえるようなプロダクトを作りたい」
 →最初にに始めたときはそう思いがち
 →→これはよくありがちな大きなミステイク
 →→→そうでない
・「誰にも受けるようなものをメインストリームにもっていく」
 →そう思って作りこんでしまう
 →→結局は誰も使ってくれないような楽しめないものになってしまう
 →→こういう傾向も大きくありがち

◇キャズムを渡ることは1つの大きなポイント
・最初はきちんとアーリーアダプターから腰を据えてやっていくこと
 →キャズムを渡る近道はない
・アーリーアダプターからモメンタム(加速度)をつける
 →それからメインストリームに行く
 →→そういうステップをきちんと踏まないといけない

◇MVP(Most Viable  Product)
・「アーリーアダプターがどういう人達なのか」をきちんと分かったらどうするか?
 →そのアーリーアダプターがどういう課題を抱えているのか見極めていく
 →→ここで出てくるのがMVP
・MVPの定義はいろいろある
 →「カスタマに対してバリューを提供できる最小単位のソリューション」
 →→これが自分の定義
・MVPの例 = かなりストリップダウンされた何もついてないver. 1.0のリリース
 →ただし、カスタマーの直面している課題にきちんと何かできているもの
・MVPの例 = 中の人がオペレーションして、カスタマーに体験してもらう(コンシェルジュMVP)
 →作りこむ代わりに、こうやってバリューを確認するというやり方もある

◇「MVPが何か」ということをきちんと見極めてから作りこんでいく
・「カスタマーが本当に求めているもの・バリューとして感じられるものがその中にきちんと盛り込めているか」
 →MVPが何か分かったら作りこみをやる

◇一番初めにMVP・プロダクトをローンチした段階ではいろいろな問題が起こる
・それを使ってできるだけデータを集めたい
 →よくあるひとつの傾向
・でもやろうと思えば情報はいくらでも集められる
 →現代ではそのくらいの情報が存在する
・その情報の海に溺れてしまうこともある
 →マトリックスを作ってきちんと指標を追いかけていかないといけない
・始めは少ないツールで見るところから始まる
 →でも、そうこうしているうちに情報まみれになってしまう



◆4 Establish a standard measure of progress

◇進捗を図っていくスタンダードなものをきちんと作っていく
・情報まみれになってしまうことへの1つのソリューション
・既存の会社は財務指標できちんと測って業績を評価している
 →では、スタートアップのきちんとした指標は何か?

◇Dave Mcclure's "Pirate Metrics"
・ざっくりいうとカスタマーライフサイクルがどうなっているかを表す指標
 1. Acquitision : 新規の顧客を獲得
 2. Activation : どう一番最初のエクスペリエンスをしてもらうか
 3. Retension : 最初のエクスペリエンスすごくよかったら使い続けてくれる。カムバックしてくれる
 4. Revenue : 使ってもらうことで売り上げが立っている
 5. Referral : 使うことで満足しているカスタマーが他の人に宣伝してくれる

◇基本はこの5つ
・業績の指標として見るものはいろいろある
 →自分の会社ではこれに絞っている
 →→それぞれの後ろに詳細なのはある
 ・この5つが基本でメインのルール

◇まずカスタマーバリューにきちんとフォーカスすること
・最初にプロダクトをローンチしたときはこれをやる
 →このタイミングではこれが重要
・成長がどうだとか売り上げやレベニューにフォーカスしてはいけない



◆5. Deliver value before growth

◇Pirate Metricsでバリューはどこに位置づけられているのか
・Acuisition
 →ここではない
・Activation
 →まずはよい良いカスタマーエクスペリエンスを提供できているか
 →そうじゃないと戻ってまた使ってもらうことはありえない
・Retension
 →2つめに重要なのがバリューの観点
 →使い続けてくれているか、カムバックしてくれているかも指標としてみる
・Revenue
 →課金モデル使っている場合は、ActivarionできていてRetntionしていれば売り上げや収益はついてくる
 →そういう意味では相対的に重要ではないかもしれない
・Referral
 →ここではない



◆6. The terrain before Product/Market fit is riddled with qualitative learning

◇ローンチしたばかり = 使ってくれるユーザは限定的
・ユーザの数が少ない
 →定量的な評価よりも定性的な評価の方がよっぽど重要
・ポイント = "「成長を求めてバリューを無視」はしない"
 →あえて限定的な数のカスタマーにフォーカスして情報を得たほうがよい
 →大規模な集団を使ってそこからインタビューしたり情報を得るよりもよい

◇まだまだ最初の段階なので分析ツールは使わない
・シンプルなもので学ぶようにしていく
・Pirate Metricsの5つのステージを書いたカンバンボード
 →Acquitision □□□□□□□
 →Activation □□□□□□□□□□□□□
 →Retension □□□□
 →Revenue □□
 →Referral □□□□□
 →→それぞれのカードがカスタマーに関する情報が書いてある
・指標を管理するにあたってするべきこと
 →Referralへカスタマーを持っていくためにはどうすればいいか
 →→できるだけカスタマーに満足してもらったうえで、Referralにいくように

◇実際に使っているユーザが限定的で少ないことはありがたいこと
・かなりパーソナルなところまで確認・ラーニングができる
 →10人~20人くらいしか使っていない
 →→学習のスピードも加速する
・一番最初なのでバグもあるかもしれない
 →人数が少ないのは非常によい

◇Product/Market fit拡大のステージ
・Pirate Metricsの5つのステージを書いたカンバンボードで、7~8割がReferralにできたら移行する



■Scale

◆7. Identify your engine of growth

◇ここまで来たら「どう成長させるか」「どこが成長のエンジンか」を模索する
・ここまで来ているということは、プランがマーク?し始めている段階


◇成長のエンジンとは?
・Acquisition - Paid
 →最初の成長エンジンは支払い
 →→できるだけユーザーベースを広げていくイメージ
 →維持できるようにするためには獲得コストがRevenueを下回っていないといけない
 →→そうじゃないと長期的には持続できない
・Retension - Sticky
 →できるだけ長い間使ってもらう
 →→例. 携帯電話の契約や雑誌の定期購入
・Referral - Viral
 →facebookやtwitterがこれをすごく活用している
 →→既存ユーザがReferralすることで、新しいカスタマーににうまく入り込んでもらっている

◇最初はどれか1つの成長エンジンにフォーカスをあてる
 →そうやって進めることが重要
 →→プロダクトによっては1つ以上の成長エンジンが関係していることも
・1つの判断の仕方 = 「プロダクトがどれだけ効果を出せるか?」
 →例えばfacebook
 →→3つのエンジンへの可能性があった
 →→→でもバイラルにフォーカスを当てた
 →→→→それは、そこが一番効果が大きいという判断をしたから(なのではないか)



◆8. Measure everything as a cohort

◇ユーザが増えた状態になるとパフォーマンスを計測するのが楽になるか?
・逆に難しくなってくる
 →ここまでいくとプロダクトのユーザベースもかなり増えている

◇何故ユーザベースが増えると難しいか?
・1つはプロダクトは常に変化しているものだから
 →新しい機能が加わってくる
 →マーケティングキャンペーンによって何か変わることもある
 →→川の流れのような(同じところに足を突っ込むことがないような)状況
・2つ目の理由はそれぞれサイクルの長さが違うから
 →例えばレベニューのサイクルは他より長い
 →→レベニューは後半にならないと入ってこない
・サイクルの長さが違うと原因と結果の関連付けが難しい
 →「何かが起こっても結果が出てくるのは数ヵ月後」というのが普通にありえる
 →→「うまくいってる」と思ったとき時点ではものすごく間違った方向に入っていたりすることもある

◇そういう風に悩んでいる人には?
・コホートの考え方が有効な手段
 →ある一定の特性ごとにユーザをまとめる(Align)
 →→こうすることで、さっき言ったような"ずれ"をなくす
 →→→これが基本的な考え方
・コホートはマトリックスによる管理方法の上級版
 →原因と結果をより関連付ける手法

◇ここまでくれば何が間違っていたか問題だったかというのは指標で分かる
・ただそれで解決したかというと…
 →そうではない
 →原因(Why)には、これだけでは充分ではない


◆9. Build a continuous feedback loop with customers for rapid hypothesis generation

◇ここで重要なこと
・いかにカスタマーからフィードバックをもらい続けてフィードバックループを実践できるか

◇"指標"ということで数値で表してしまいがち
・でも指標を作っているのは個々の人なのでこういうことが重要になる

◇「マトリックスと指標の裏に誰がいるのかははっきり分かるようにする」
・自分達の場合は仮説を立ててやり始めた
 →そうやって運用していった
 →→次に進んでくれるハッピーなユーザとそうでないユーザの両方を見た

◇どんな人達か限定できた段階で問い合わせをする
・何が問題なのかをメールで聞く
 →これはけっこう辛いこと
 →→1日100ユーザにメールを送るとかけっこう大変
・で、メールを自動送信するシステムを作った
 →問い合わせのためのメールを自動で作ってくれる
 →→1日に30, 40通くらいのメールが返ってくる

◇メールの回答はかなり活用している
・これのおかげでかなり理解が深まる
・次はどんなExperimentで回してみようかという判断もできる
・自動でメールを送るというのは全プロダクトでやっている



◆10. Breakthrough insights are usually hidden within failed experiments

◇失敗した場合に、いかにExperimentのプロセスを使えるか
・Experiment = 実験
 →新しい機能を追加するときは実験(評価・テスト)する

◇ピボットは(いろいろな意味で)間違った意味でも使い込まれている
・何かが1回でも失敗すると、それを理由になんでもいいからピボットしてしまう
 →よくアントレプレナーがやりがち
・本当の意味でのピボットとは単になんでも変えることではない
 →学習に基づいているのかが一番重要
・適当にピボットする = いろいろ試してみて何がうまくいくかを適当にやっているだけ

◇失敗それ自体はいいことだし想定するべきもの
・ホッケースティック曲線
 →幾つもの成功している会社がこういう曲線を描いて成長していた
 →→成功にたどり着くまでにはかなりの期間を要するということ
・伸びていない期間が長いのは?
 →ある程度やらなければいけないことが、前段階では必要だということ
 →→創立者が仕事をしていなかったとか、そのときたまたま間抜けだったとか、そういうわけではない

◇トヨタ生産方式でも同じ事を言っている
・課題・問題は何かというのを製造工程ですごく追いかけている
・「課題・問題がない = それがわかっていないということ」
 →この状態なら、そのこと自体が問題だと言っているくらいに追いかけている

◇実験に失敗はない
・単に想定外の結果が起きただけ
 →そのとおりだと思う

◇「失敗したからピボットする = 失敗から逃げる」ではいけない
・失敗があったのであればピボットする前にまずきちんと理解する
 →何故だったのかという原因を探ってからでないと、ピボットしてはいけない
・そうなると作業量が手間だということにはなりがち
 →でもExperimentをやるなら最終的には学習がなければいけない
 →→時にはカスタマーに戻ってもっと質問を投げないといけないかもしれない
・いずれにしても根本原因について見極めないといけない

◇失敗の中に通常は磨けば輝く宝石が眠っているということ
・それを見つけて磨くのが皆さんの仕事だと思う



■質疑応答

Q.
Pirate Metricsの5つのステージを書いたカンバンボードはどういう使い方になっているのか?

A.
カード = カスタマー。
カードの端には担当者の写真がついている。
一番注目して欲しいのはカスタマーがどれくらい各ステージにいるか。
ユーザが次のステップに進んだときカードを手で動かす。
10人とか20人程度なので、これでできる。
ただし、これでビジネスモデルを作れるかというと… 20人程度のユーザでは到底想定できない。
一方で「20人を満足させられないなら、到底満足できるビジネスモデルは作れない」という考え方も持っている。



Q.
アクティベーションやリテンションまで行ってからユーザ獲得やバイラルという話があったと思う。
ただ、新サービスはリリース直後がニュースとか掲載されやすいし、そういうときにツイートやPRもすると思う。
それに、ツール自体にバイラルも組み込んであることも多いと思う。
今の話を踏まえれば、最初の方はそういうことや機能の搭載はしない方がいいということか?

A.
そういうことで間違いない。
PRをあまりにも早い時期にやってしまうのはいけない。
印象付けるのに一番初めが重要というのもある(早い時期にPRするとProduct/Market fitしている途中のものが印象付けられてしまうということ)。
よく言っているのはできるだけ規模を小さくしてバリューを試すことをした方がいい。
何千人とか言う規模にする必要はないと思う
最初は10人とか20人くらいの小規模なもので始めて、そこにバリューがあるかどうかを確認する。
本当にPRをするのは、山を登ってもっと上のほうに行ってからでいい。それからで充分。
その時点でPRしてAcquisitionすればいいと思う。



Q.
10~20人くらいで始めて、その後PRする場合を考える。
ADを出すということではお金をかければいい。
リリースを打つとしたら「30万ユーザが使っている」とかあれば出しやすい。
逆に、そうじゃないとなかなか出しづらい。

この時、アプリの中から静かにバイラルを待つのか、それともお金を使って広告を打ったほうがいいのか?

A.
10人20人の規模のときにはメディアやプレスとは全くトークしない。
トークするのはカスタマーだけ。

facebookがローンチしたときも、一番初めから拡大を狙っていたわけではなかった
大学の寮の中でユーザを広げて、そこで全体に広がってから他の大学に広げた。
ただ、それもハーバード全体に広がったからといってすぐに広げたわけではない。
マーク・ザッカーバーグも、さっき言ったプロセスと全く同じことをやった。
あまりにも早い段階で成長にばかり意識を使うのはやめるべき。



Q.
日本の企業やアントレプレナーは製品を作ったら「価値がある」「みんな使ってもらえる」と思う
でも多くの製品は、誰も欲しくない使いたくないようなもの。
そういうものを既に作ってしまっている。

リーンスタートアップでは本当に価値があるものだけを市場に出そうとする考え方。
でも日本は作ってしまっている。そこにずれがあるように思う。

A.
それは日本だけではなくて、伝統的ないわゆるリリースとかローンチをやっているところはそうなのだと思う。
確認しないで作りこんでしまい、販売された後でないとチェックをしない。
これだと、販売するまでは学びが全くできていないということなので、失敗の率がすごく高くなるという問題がある。



Q.
リーンキャンバスを書くときに、どの時点の収益なコストを想定して書くのか?

A.
リーンキャンバスはコンスタントに変わっていくオーガニックなドキュメント。

一番初めにキャンバスを作るときのコストとレベニューは、どの段階というより「どこまで目指せるか」「ビジネスがどれだけ大きくなるか」というビジョンという意味で書くもの。
実現可能(Make sense)なものを書きこむこと。

作ったら各ステージごとにアップデートしていく。
例えばProblem/Solution fitのときには、それを実現するためにはどれくらいのコストが必要かということ。
「それを達成するには」というところで「どれだけの資金が必要か」などの観点から変えていく。

で、第一ステージをクリアできたら第二ステージ。
今度はEarly Tractionで、どれだけのコストが必要になるのか。

Lean Canvasは本当に日々明確に変えていくべきもの。
事業計画の場合、5ヵ年計画といって最初に作りこみ、それに後から現実をあわせていくと思う。
Lean Canvasはそうではなくて、それ自体を進化させていくもの。






Ash Maurya様、O'Reilly Japan様、クックパッド様、ありがとうございました。

2012年12月22日土曜日

『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』ノート - 質疑応答 (4 / 4)


2012/12/17に開催された『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』のノートの質疑応答部分です。



◆質疑応答

Q.
日本でワークショップをやる予定は?
翻訳者である角征典氏のワークショップは素晴らしかったが、マウリャ氏のワークショップはそれと全く同じものか?
そうでない(同じものではない)としたら、日本で誰かにやってもらう予定などはあるか?

A.
角征典氏からは翻訳の過程で的を射た質問をたくさんもらった。
その中で自分として内容を詰めていったり、リファインしたものもあった。
彼はエッセンスを捉えていて、だから(彼のワークショップは)同じものだと認識している。



Q.
「書籍のMVPがワークショップ」というのは、ぱっと見た感じわかりにくいと感じた。MVPを見つけるコツというのは?

A.
MVPでは「課題が何か」をきちんと把握することと、「それに対して正しいプロダクトやソリューションを出せるか」を確認しなければいけない思う。
ここは人によって違うと思うが… (これを踏まえて)自分の場合は「デモをできるかどうか」。
(MVPの定義に対して)少し厳密に考えるようにしている。

ここでいうデモとは、「デモをやることによって需要の有無を確認ができる」という意味でのデモ。
また、「デモをやることによってバリューを確認できるので、これを元に考えるといい」と提言もしている。

「バリューを提供できているかに注意すればいい」ということは、「どういう形で提供するか」ということをそんなに気にしなくていということ。
コードでなく全てを人がやっても、充分バリューは確認できる。



Q.
Running LeanのメソッドとLean Canvasは既存の企業においても有効?
有効ならどういった点に注意すれば?

A.
いろいろなビジネスの形態があると思うが、Lean Canvasの考え方は全てに有効だと思う。
事業の立ち上げだけではなく、プロダクトを新たに出すところなど。

「カスタマがいるか」「市場はどこにあるか」というのは一番リスクが多いところだと思うので、そこを注意すればいいと思う。
これらはそれを確認するための1つの有効なやり方だと思うし、そこさえ確認できれば後は容易に埋めていくことができる。

あとは、プランを完璧にしようとしすぎないこと。
チーム内で一緒に作るとしても半日。時間をかけるとしても、1日以上はかけないようにする。
以降はとにかく外にでて実際のデータの回収。
そういうことをできるだけすぐやったほうがいい。



Q.
日本という市場と、日本のスタートアップに対して考えていることは?

A.
日本に長くいたわけではないので、日本の市場やスタートアップについて特に意見があるわけではないが… 何人もの日本人のスタートアップの人とは話しをしているので、その辺りの意見や認識は持っている。

この2年、世界中を飛び回って世界中の国の人と話をした。
どこであっても、アントレプレナーとしてのスピリットや気持ちは同じだった。

一方で文化的な違いはある。
失敗に対してどこまで受け入れられる文化的な環境なのか。特にこれは大きいと思う。
周りの人から「そんなことやめとけ」と言われる文化か、そこまではでない文化か、というのはある。

できるだけ早期の段階で「リスクがどこにあるのか」というのを見極め、そのリスクを緩和させていくことが今日の話の1つのポイント。
必然的にリスクが減ってくるので、どの文化でもやりやすい手法であると思う。



Q.
プランをピボットするのかそれともそこで中止するのかの見極めがすごく難しい。
何かそこで大切にしているポイントは?

A.
これはすごく難しい問題だと思う。判断を迷うところだと思う。

自分個人でやるようにしているのは「成功というのはどういうものなのか」きちんと定義すること。
「5年後にどういう成功を収めるべきである」とか「どういう形を持って成功とする」であるとか、そういうものもあっていいけど、それだけではなくもっと短期的に。
「3ヶ月とか6ヶ月先に目指すところ」をきちんと定義できているかということと、それに対して定期的に確認するということ。
月に1回でも2回でもいいので、目指すところに対してどこまでいけているか、というのをきちんと測定する。
そういうことをやっていると「きちんと正しい方向に進んでいる」であるとか「これはどこにも向かっていない」であるとか、確認することができる。
もちろん上手くいっていないからといって経験や学びができないわけではない。
そういうことを繰り返しやっていると「これは方向的に向かっていない」とか、そういうサインが見えてくる。
こういう形で短期的に確認し続けるというのが1つのやり方。

もう1つやってしまいがちな傾向として、1回Experimentしてみて失敗したから「じゃあ変えよう」として失敗するたびに変えるというというのがある。
これではいけない。ランダムに適当にピボットというのはよくない。
失敗したのであれば、失敗の根本原因(Root cause)というのをきちんと見極めたうえで判断しないといけない。
失敗の原因さえ分かっていれば… 分かった上でのピボットであればいい。
ピボットはきちんとした根拠のあるものでなければいけない。



Q.
Experiment(Learn-Build-Measure)という流れの中を一通り回してみて、Learnの箇所は難しいと思った。
「正しい学びなのか間違った学びなのか」という判別が自分ではなかなかできない。
迷ったときに何が正しい学びなのかということを見抜く方法があれば教えて欲しい。

A.
私はLearn-Build-MeasureのサイクルをExperimentと言っている。これは科学的な言葉を"あえて"使用している。
なぜ科学の言葉を使っているかというと、「どんな仮定であっても、間違ったことを証明できる可能性がある仮定でなければいけない」と思うからだ。
「この何かを1ヵ月100ドルで提供する」と言った場合は「それに加入するかどうか」。具体的な数値でないといけない。
「この何かを良いと思ってくれるかどうか」だけだと、その仮定が間違ったという証明すらできない。
そうではなく、Experimentが成功か失敗かはっきりするような形の仮定を組むことが重要。

「100$じゃなくて80$-90$だ」となるかもしれないし、もしくは「5$-10$だ」とか。
後者の場合はビジネスとして成立しないということが分かる。
きちんとした仮定を持ち、それで判断すること。



Q.
今回の事例ではまずブログがあったということで、ある程度リーンスタートアップに興味がある人(カスタマー)がついていたと思う。
そうでない場合に、アーリーアダプターがいなかったのか仮説検証の方法が間違っていたのかを判断する方法は?

A.
「アーリーアダプターがどこにいるかわからないとき、どういう風に見つけていくか」という質問だとしたら… 最初のところではそこが一番リスクが高い。見つけるのも見極めるのも大変。
たしかに今回の事例ではブログというベースがあったが、それ以外のプロダクトの立ち上げでも使ってみたことがある。
そのときの例でいうと、想定するカスタマーセグメントを幾つかの切り口で作り、その人達に使ってもらうことで見極めようとした。
まずは限定した形で始めて、その中で本当に限定した人数からインタビューなどをした。
「まず規模を小さくして、そこからスケールアップして規模の拡大をできるかを考える」という形で始めた。






Ash Maurya様、O'Reilly Japan様、Yahoo! JAPAN様、ありがとうございました。

【建設予定地】『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』ノート - Yahoo! JAPANの事例 (3 / 4)

『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』ノート - ケーススタディ (2 / 4)


2012/12/17に開催された『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』のノートのケーススタディの部分です。



◆ケーススタディ - アッシュ・マウリャ氏が本を書いたときの話

◇自分が本を書くにあたってどういうプロセスを辿ったか
・本を書きながらメソドロジの評価・テストをした
 →これについて細かく書いたのが『Running Lean』の第2章

◇この話は本を書くもっと前の段階から始まる
・そもそもはブログに書いていた
 →Running Leanの原則の部分についてはずっと書いていた
 →→ただし、原則について知っていたからではなく、自分も分からないから書いているという状態
・「ブログの内容を本にまとめるつもりはないのか」
 →そういった記事を幾つも書いていたら、このようなコメントがきた

◇本を書くような時間はなかった
・当時(今も)事業をやっている
 →正直に言うと興味はなかった
・作家 = 山小屋とか人里離れたところにこもって本を書く人
 →自分はそんな人間になりたくない

◇そうこうしているうちに、11 ~ 12人くらいからリクエストがきた
・この辺りから「これはどういうことができるか」というのを考えるようになった

◇自分に問いかけた質問
・「これは取り組むに値するものなのか?」
・「ソリューションを提供する価値があるだけの課題が存在するのか?」

◇何をしたか
・出版のリクエストした人に直接インタビュー
・ティーザー(触りとなる)ページを作った
 →プロダクトでいうデモのようなもの
・ブックカバーもないしタイトルも今とは違う
 →それは最適化の作業
 →→そういうものが必要になるのは最終的な段階
 →それらは「最初からしっかりしていなくてもいいだろう」という考え方
 →「タイトルやカバーにリスクはそんなにないだろう」

◇「一番リスクが高いところにフォーカスしよう」
・まずは目次を書き出した
 →本のリクエストをした人達と目次の案を共有した
 →→対話(Conversation)を行った
 →→→彼らからいろいろな意見をもらえた

◇「この目次のとおり、こんな形の内容で書いてくれるなら… お金を出して買ってもいい」
 →対象(リクエストをくれた10人くらい)全員が言ってくれた
 →→ある程度繰り返してここまでもっていけた

◇ここまでが定性的な確認作業(Validation)
・これができても証明できないことがある
 →「スケーラビリティがあるか?」
 →「本を書くだけの労力を使う価値があるのか?」

◇目次ができた段階でティーザーページに変更を加えた
・タイトルを変更
 →ヒアリングしたときにいろいろな人からフィードバックをもらえた
 →→もともとよりいい案がたくさん
 →→→そのうちの1つがタイトルに
・この夏(2009年の夏)に出すということを宣伝
 →この時点では後4~5ヶ月先
 →かなりアグレッシブなスケジュール
・メールアドレスを送ってもらうシステムを組み込んだ
 →送ってもらうことで、どれだけの人が関心を持っているかを図れる

◇実際には夏には出版されなかった
・「ブログにいろいろ書いてあるからできるだろう」と思っていた
 →見積もりが甘かった
 →→結局遅れてしまった

◇変更した後にやったこと
・ブログやtwitterに書いて告知
・Eric riesなどにもコメントをもらった

◇その後… 何もしなかった
・他の仕事をやっていて、この本からはいっさい離れた
・エビデンスは作っていた
 →「関心を持っている人の規模が充分にあるか?」
 →これが確認できるまでは動かなかった

◇夏には1000を超えるメールアドレスが送られてきた
・プロジェクトとして価値がある
 →これだけのメールがくるのは、実際に課題として認識されているから
 →プロジェクト化

◇まずはMVPに手をつけることに
・ブログで情報はかなり書いていた
 →でも本を書くにはもっと膨大な作業が必要だった
 →→とてもすぐ終わるものではない
・MVPの(1つ)の定義
 →「最終製品の一番小さなバージョンをカスタマーに示し、そこから学ぶこと」

◇MVP = ワークショップ
・ワークショップを開催することに
 →目次をベースにスライドを起こした
 →→テキストしかないようなもの
 →→→時間をかけずに作ることができる
・オースティンで無料のワークショップをやると告知
 →30人が関心を示した

◇無料で始めた目的は
・バリューを確かめるため
 →「無料にも関わらずバリューが無いなら、絶対お金を出してくれない」
・リスク緩和
・無料だから気に入らなかった人は「ワークショップは駄目だった」で終わり
 →お金を返せと言われることがない
・30人の申し込みはあったが、10人だけ
 →最初は10人だけが参加するという形で組んだ
 →→あとで違うバリエーションのワークショップをやるための余裕を持っておきたかった

◇最初の1回目からうまく評価された
・「これならお金を払ってもいい」
 →いくらくらいかを確認
・残りの二回はPaidなワークショップに
 →最初の1回以降は全て有料

◇有料のワークショップ開催は目的でもゴールでもない
・「コンテンツにバリューがあると感じてもらえるか」を確認するのが目的
 →無料だとバリューがあると感じてもらえているかを確認しにくい
・夏の間はずっとワークショップを開催
 →中身や流れをリファインしていった
・でも本やチャプターは全く書いてない
 →この段階ではまだスライドを作っているだけ

◇夏に出すと言ったのに、夏の間ずっとワークショップをやっていた
・いろいろな人から「まだでないのか」「どうなっているのか」というメールが届くように
 →対応しないといけない
・「もともと想定したより見込みが甘くて… 時間がかかってしまっている」
 →「これからきちんとプロジェクトに対応する」
 →「あと1つ、約束しましょう」

◇普通の本のそれではないやり方でローンチした
・「この本は、ソフトウェアのようにイテレーションをベースにして出します」
・「無料のチャプターを提供します」
・「プレビューも提供します」
 →プレオーダーしてもらえれば、2週間毎にチャプター2つを送ると約束
・これらを受けてランディングページを変更
 →プレオーダーのページを追加
 →"coming this summer" -> "comming soon"
 →→どれだけ時間がかかるか分からない

◇2週間毎にリリースするというやり方は、想定外なくらい上手くいった
・2週間の間にいろいろなフィードバックをもらえる
 →それを元に改善をかけていくことができた
・読者自身もアントレプレナー
 →構成の変更内容の提案
 →図を作って送ってくれることも
 →もちろんスペルミス・誤字脱字・文法の指摘も

◇全員がフィードバックをくれたわけではない
・注文してくれた人の半分くらい
 →彼らはアーリーアダプターだと思う
・アーリーアダプターなので出たらすぐに欲しい
 →出た後にきちんと改善・ヘルプすることをいとわない
 →→アーリーアダプターにはそういう人が多いと思う

◇だいたい本の3/4を書いた
・ここで想定外のことがおきた
 →大手出版社から連絡をもらった
・この本はリークしているようなもの
 →何度も出している
 →PDFかつDRMも入ってない
・何度も確認した
 →そのくらい驚いた

◇出版社の人が気にしていること
・この本がマーケットを作ることが出来たこと
 →魅力(Traction)があるということ
 →気になっているのはそれだけ
 →PDFやnoDRMのことは特に心配していない
・まさしく投資家の考え方と同じ
 →始まったばかりのプロジェクトに投資するというのはリスクが大きい
 →→彼らの方でかなりのリスク削減策をとらないといけない
 →本でも同じ考えが言えるということ

◇勢いもあってそのまま第一項を書き終えた
・この時点では複数の出版社と話を進めるようになっていた
 →最終的には2010/2に販売
・ランディングページ・ブックカバーをこの段階で綺麗に
 →この段階になって始めて綺麗にすることが重要になった
 →それまでは全く気にしていなかった

◇アーリーアダプターの人達がいて助かること
・「これには本当に価値がある」と思うときちんと評価のコメントを出してくれる
 →実際にコメントをもらい掲載した

◇この本は大規模なソフトウェアと全く同じ
・終わりはなくてリリースがあるだけ
 →第一版は対話(Conversation)の始まり
 →今でも改定を加えている
 →ブログ、ニュースレターでの活動も継続している

◇徐々にカスタマー層が広がっていった
・最初はアーリーアダプターだけだった
 →ウェブデザイナーやデベロッパー
 →今ではいろいろな人が読んでくれるように
・ワークショップは継続してやった
 →ワークショップはこの本のMVPになっているため
 →→内容を変えたり、客層を変えたり
 →→→そうやってきちんと学習しながら、第二版を作っていった

◇ワークショップで知ることができたこと
・本についての学び
・アントレプレナーが問題・課題がとして感じていること
 →これらの課題のために、この本以外にもプロダクトも作った
 →→オンラインで使うリーンキャンバスというツール
 →→他のプロダクト(metricsSystemなど)への派生も

◇最後に
・メタ原則の要素を感じ取ってもらえれば幸い
・ケーススタディはこれ以外にもいっぱいある
 →ハードウェア
 →ソフトウェア
 →政府
 →→実際にこのプロセスを使ってプロジェクトの成功率を上げている事例も
・もっとケーススタディを知りたい人は?
 →Lean Start Up Conferenceを検索してみるといいと思う
 →→政府系・教育系などいろいろな事例が見つかる






Ash Maurya様、O'Reilly Japan様、Yahoo! JAPAN様、ありがとうございました。

2012年12月18日火曜日

『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』ノート - 導入・理論 (1 / 4)


2012/12/17に開催された『Running Lean -実践リーンスタートアップ 刊行記念 著者アッシュ・マウリャ氏 来日特別セミナー at Yahoo! JAPAN』のノートの前半です。



◆カスタマーとお金を出す人とスタートアップの中の人の話

◇まずは悪いニュースから…
・ほとんどのスタートアップは失敗に終わる
 →これが現実
・でも失敗するのはスタートアップだけじゃない
 →大企業が新製品を市場に投入するときも同じ
 →→大企業の中の人もアントレプレナー精神が必要
・そして、成功した例の2/3は途中でプランを大きく変えている

◇Not a better plan A but a path to a plan that works
・成功するためには何が大事か
 →必ずしも完璧なビジョンは必要ない
 →→計画がワークするように調整できるか
 →→それをリソースが無くなる前にできるか

◇今日話すこと
・"plan A"から"ワークするプラン"へ、システマチックに調整できるということ
・それをリソースがなくなる前にやるにはどうすればいいかということ
 →スタートアップはリソースがなくなってダメになる、ということが多い

◇どうしてスタートアップを成功させることは難しいのか?
・普通のスタートアップはどういう流れで進むのか
 →まず良いアイデアが浮かぶ
 →→そのアイデア(ソリューション)に恋してしまう
 →→→そしてそれをビルドする
・これが一番典型的な形
 →ソリューションへの情熱があるから動く、ということが多い
 →→それはマーク・ザッカーバーグも同じだった
・我々はプロダクトをそういう風に見てしまいがち
 →「どういう風にペイするか、どういう風に開発していくか」というのが一番難しい
・お金を確保するためにどうするのか?
 →投資家を探したり、社内なら予算をくれる人を説得するのが普通

◇ではお金を出してくれる人はどう見ているか?
・彼らは、我々の考えたソリューションに恋なんてしていない
 →ソリューションなんて何でもいいと思っている人が多い
・彼らの関心毎は1つ
 →いかに提案をスケールアウトさせ、ビジネスモデルとしてペイさせるか

◇お金を出す人が注目するものは何か?
・魅力(traction)があるか?
 →作っている人以外にユーザがいるか?
 →ユーザがバリューを感じているか?
・コストストラクチャとレベニューストリームに関する計画があるか?
・どれくらいのカスタマー数・市場規模があるか?
 →カスタマーが誰かなのかは気にしない
・ディフェンス力があるか?
 →成功した後、どれだけ他社から市場を守れるか
・まとめると
 →魅力(traction)があるか?
 →カスタマーや市場に展開できるか?

◇そこまでの魅力があることが証明できていないなら?
・それはなんとかしないといけない
 →まずはカスタマーから始める必要がある

◇カスタマーはどう見ているか?
・自分の課題やproblemを解決してくれるものが欲しい
 →始めはあなたのソリューションへ恋してない
・関心は「あなたはどういうソリューションを提供してくれるのか?」
 →課題とソリューションの間にあるのがプロミス
 →→プロミスに注目するのがカスタマー
・この時点で注意すること
 →どんな課題を対象にするのか、というのは具体的にイメージできているべき
 →→そうすれば、どういうカスタマーに確認すればいいか分かる
・facebookも最初はカスタマーを絞っていた
 →ハーバード大学の学生のためのサービス
 →今は誰でも使っているけど、最初は違った
・誰にでも受けるよう広いスコープにしてしまうと、結局は誰にも受けないものができあがる

◇次にカスタマーが気にすることは?
・どれだけ負担がかかるかということ
 →負担などいろいろなものが条件を満たしていて、プロミスが魅力的なら参加してくれる
 →→参加してもらえれば、いろいろ試してもらえる

◇True productとは何か
・ビジネスモデル全体のこと
 →ソリューションではない

◇アントレプレナーの本当の仕事は、ビジネスモデルが持っているリスクを削っていくこと
・対話をとおしてリスクを削っていく
 →顧客と
 →社内の人と
 →投資家と
 →アドバイザーと
 →ときには競合他社と
・どう対話するか?
 →それはRunning Leanに書いてある



◆Running Leanの3つのメタ原則
・Document your plan A
・Identify the riskest parts of your plan
・Systematically test your plan

◇メタ原則の基になる考え方
・本当のプロダクト(True product)はビジネスモデルだということ
・ビジネスモデルを考えるときもテクニカルな観点から説明が付くということは重要
 →そこは注意してやった

◇メタ原則1 : plan Aの文書化
・これはなんでもそう
 →家なら設計図
 →旅行なら旅程表
・きちんと文書化しようというもの

◇通常ならビジネスプラン(事業計画)やビジネスケースとして文書化する
・ビジネスプランを書くことが楽しかった人はどれだけいるか?
 →ビジネスプランはとてもpainful
 →→しかも書けと指示した人は最後まで読まない
・でもこういうことをしっかりやるのはアントレプレナーには非常に重要
 →その前にどれだけ対話ができているのかという問題があることに注意

◇エグゼクティブサマリとかエレベータピッチを書けといわれることもある
・どうせそういわれるなら…
 →最初から1ページに綿密でシンプルなものを書くのはどうだろうか?
・それがLean Canvas
 →こういう形でも充分作ることができる

◇事業計画やビジネスプランを作ったことがある人は、見出しを見るだけでLean Canvasに何が書いてあるかわかる
・ビジネスで重要となる、コアになるものを書き出したもの
 →特にリスクに着目している
・ビジネスモデルキャンバスに調整を加えてある
 →よりアクションがとりやすいように
・分割統治
 →複雑な問題は要素ごとに分解するという方法
 →Lean Canvasも1つ1つが独立した観点からまとめてある
・だからといってバラバラで良いわけではない
 →最終的にはジグソーパズルみたいに1つにまとまらないといけない

◇メタ原則2 : どこが一番リスクを高いか見つけるには?
・ソフトウェア開発はリスクが高いところから手をつける
 →それはビジネスも同じ
・どこにリスクがあるか、どうやってそれを低減するか
 →これが成功へのひとつの道
・EasiestではなくRiskestなところから始めるということ
 →これはポイント
・プロダクトを作るのはEasiest
 →特にプロダクトを自分で作っている人にとってはそう
・プロダクト自体が失敗するのは作りこみの問題ではない
 →カスタマーが見つからない、市場がないというのが一番の理由

◇どこがリスクなのか見極めるためには?
・Problem/Solution fit
 →課題と解決がどれだけフィットしているか
 →解決・対策に値する課題が存在しているのか
・もともとはトヨタ式、リーンの考え方
 →外・現場に出て行かないといけない
 →自分がいいと思っていることだけをやっていてもダメ

◇カスタマーに存在する問題、その中で何が重要なのか知る方法
・これはいろいろあると思う

◇カスタマーの重要な問題を理解した上で出来ることは
・何を最小単位で提供できるか
・MVP(Most Viable Products)
 →本当に小さな規模のソリューション
 →小さいけどカスタマーにバリューは提供できているもの

◇今までの伝統的なやり方
・時間をかけた作りこみ、テスト、調整
 →それからくカスタマーに使ってもらっていた
 →→そうやってできたものを使ってもカスタマーは迷子になってしまう
・途中のものでも、それがカスタマーの望むものか確認しながら進める
 →全体が出来上がってからカスタマーに出すのではなく
・小さい規模でも「これはカスタマーがバリューを感じている」という確認をとる
 →それからスケールするというステージに進むべき

◇通常のやり方とProblem/Solution fitの違い
・どのサイクルでもカスタマーを巻き込んで進めている
・プランをまとめて、そのプランにどういうリスクがあるかを確認する
 →そのリスクに対して体系的にテストもやるべき

◇メタ原則3 : システマチックにテストする
・Experiment - Eric RiesのBuild-Measure-Learnのサイクル
 →アイデア(仮説)からスタート
 →それを元にプロダクトを作る
 →→本当に小さなもの、全部ではないもの
 →実際に使ってもらう
 →そして定量的定性的に計測する
 →データとして確認する
 →データを活かして学習する

◇学習することによって調整を行う
・学習することで、想定していたリスクの正しさが分かる
 →違えば修正して進めばいい

◇Experimentを回していく上で重要なもの
1. スピード
 →時間は、スタートアップにとって一番大切で一番足りないリソース
2. 全てのExperimentはLearningで閉じる
 →成功のいかんに関わらず学ぶことはできる
3. 適切なフォーカスができているか
 →回そうとしているExperimentのフォーカス自体が正しいか
・フォーカスをきちんとやる
 →これがないと、Experimentのサイクルを回してもアクションが伴わなくなってしまう
 →→カスタマーすらついていないのにサーバを増設したりコードを書いてしまったりとか

◇次の3つを、フィードバックループを回す形でやっていく
1. Document your plan A
2. Identify the riskest parts of your plan
3. Systematically test your plan
・左から右、右から左へと



◆リーンスタートアップとは何か

◇リーンという言葉自体が昔は誤解を生んでいた
 →チープとか良くないプロダクトであるとか

◇リーンはトヨタの製造システムから取ってきた考え
・リーンの考え方の重要なポイント
 →いかにムダを省くか
 →いかにリソースを有効活用するか
・お金は重要なリソース
 →ただ、お金が一番価値があるリソースというわけではない
 →一番価値があるのは時間
・お金や人的資源は増減できる
 →時間は一定方向にしか進まない

◇自分のリーンスタートアップの定義
・ある一定の時間の単位で、何が一番リスクなのか最も効果的に学べるやり方






Ash Maurya様、O'Reilly Japan様、Yahoo! JAPAN様、ありがとうございました。