2012年9月28日金曜日

『Experience Vision のはじめかた』ノート



2012/09/26に開催された『Experience Vision のはじめかた』のノートです。

DevLoveは今日で93回目とのこと。あと7回で大台です!


◆山崎和彦様 - 自己紹介
 
 ◇経歴
 
  ・京都工芸繊維大学で工業デザインを専攻
 
  ・クリナップからIBMへ
 
  ・IBMでは工業デザインからソフトウェアのインタフェースデザインへ。ユーザエクスペリエンスデザインセンターを作った。
 
  ・その後はコンサルティングとして、UCDやUXを伝える活動
 
  ・そして千葉工業大学へ
 
 IBM時代にアメリカ人の同僚が言っていた。「アメリカでは家に帰ってから勉強している。大学も単位辺り2万円でとれて、5年かけてMBAが取れたりする、向こうでは余暇としてそういう生き方ができる」
 そういう生き方に興味を持って、神戸芸術工科大学・東京大学で手法を学び、現場で実践していった。いまも商品戦略ウェブ戦略パッケージングなどもやっている。
 
 
 ◇執筆活動
 
  やり方をまとめることの大事さを思い、本も書いた。
 
  ・使いやすさのためのデザイン
 
  ・情報デザインの教科書
   →この分野を学ぶための教科書として作った。
 
  ・プロダクトデザイン
   →教えることが先生毎に違って、どうなの?と思って出した。工業デザインって、どこでも聞くけど、教科書がない。僕らが始めて作ったという自信ができた。
 
 本として出版することで手法や考え方を使ってもらう。
 自分が学んで経験したことを使ってもらえることで、社会に役に立ったと言う実感がある。
 今日もその延長にある。
 
 
◆エクスペリエンスビジョンについて - どういったものか
 
 ◇エクスペリエンスビジョンについて
 
  ・ビジョン提案手法のフレームワークである
 
  ・新しいビジョン・サービスを構築するために役立つという視点から作った
 
  ・ユーザの本質的体験から見た、ユーザがもっと喜ぶような新たな体験を与えるため、本質的な価値と展望を探ることが目的
 
  ・本質的欲求からはじめ、上位の価値やサービスを考える
 
  ・エクスペリエンスビジョンのプロセスを全部使わなくても、全体像がつかめるようなテンプレートがある
 
 
 ◇エクスペリエンスビジョンの歴史
 
  ・エクスペリエンスビジョンは5年かけて作った
 
  ・ワークショップや合宿で実証していったら5年かかった
 
  ・いい手法はどんどん取り入れていきたかったから5年かかった
 
  ・世の中にあるものは使い、無いものは考え出した
 
 
 ◇エクスペリエンスビジョン本について
 
  ・エクスペリエンスビジョンで使用するテンプレートはダウンロード可能
 
  ・本を持っていなくても落とせる
 
  ・エビ本には、エクスペリエンスビジョンの適用事例・教育事例・ワークショップ事例も書いてある。
 
 
 ◇既存の手法をどんどん取り入れたことについて
 
  ・手法を考えた人は、それを使えば世の中を変えるような書き方をしてしまう。でもそれは嘘
 
  ・手法は一部分でしかない
 
  ・いろんな手法を上手く使いこなす。エクスペリエンス・ビジョンにはそういう役割を持たせている。
 
 
 
◆エクスペリエンスビジョンについて - 関連領域との関わり
 
 ◇ビジネスとエクスペリエンスビジョン
 
  ・エクスペリエンスビジョンにはビジネスの観点もある
 
  ・ユーザとビジネスの両方を見ている
 
  ・モノを売っている人がどうやってサービスに転換していくか?など
 
 
 ◇HCDとエクスペリエンスビジョン
 
  ・エクスペリエンスビジョンでは勿論HCDを使っている
 
  ・エクスペリエンスビジョンはユーザの価値に基づいて企画やエンジニアが提案するアプローチを取っている
 
  ・今までのHCDはユーザのニーズを受けるものだった
 
  ・今までのHCDは問題解決に寄っていた
 
  ・欧米のHCDの使い方やデザイン思考のアプローチを見ると、HCDはイノベーションの源泉としても使える
 
  ・HCDには問題解決と提案型の2つの使い方があり、それはプロジェクトに応じて使い分ければよい
 
 
 ◇シナリオとエクスペリエンスビジョン
 
  ・構造化シナリオを取り入れていることはエクスペリエンスビジョンの特徴
 
  ・シナリオができればユーザの本質的価値を評価できる
 
  ・シナリオを使えば、きちんとしたウェブサイトなどを作ることなく価値を調査することができる
 
  ・戦略的にやるときはバリューシナリオまでやるけど、日々のプロジェクトはインタラクションシナリオで留めたりとか …そういう使い方もできる
 
  ・ユーザ視点->プロトタイプ、ビジネス視点->ビジネスモデル、の形でシナリオの視覚化ができる
 
 
 
◆バリュー(本質的な価値)について
 
 ◇エクスペリエンスビジョンでは
 
  ・構造化シナリオ手法を使い、段階的に明らかにしていく。
 
  ・フレームワーク上では、上半分をユーザ・下半分をビジネス。それを真ん中のシナリオでつないでいる。
 
 
 ◇バリューなどの上位概念について取り組むということ
 
  ・これが曖昧だったりレベルが低かったりすると、いいアイデアが埋もれる
 
  ・そういうことはすごくある
 
  ・戦略作りはすごく大事
 
  ・プロダクトを作って、じゃあ2年~3後はどうするのか?ということが書いてない企画がほとんど。
 
  ・半年後の製品をただ考えるのと、ユーザの慣れも考慮したうえで2年~3年後のことを考えるのでは全然違う
 
  ・企画書は自分のウェブサイトや製品のことしか書いてない。戦略は戦略部門の話で別、となってしまう
 
  ・そういう中では新しいことをやるのは難しい
 
  ・新しいことには投資もリスクもある。それは単体の投資では回収できないことが多い
   →だから、上のレベルで目標設定することが重要
 
 
 
◆ユーザについて
 
 ◇ユーザの本質的価値を知るためには
 
  ・提供価値分析やKA法という手法がある
 
  ・目の前の事象に対して、ユーザの価値や心の声を見つけ出していく
 
  ・潜在ニーズはフォトエッセイや行動観察で明らかにする
 
  ・顕在ニーズは日記や質問
 
 
 ◇ユーザ設定
 
  ・ビジネスを考えるのであればステークホルダーも必要
 
  ・ステークホルダー = ビジネスに影響を与える人
 
  ・優先順位をつけて、具体的な対象ユーザを明確にする
 
 
 
◆シナリオについて
 
 ◇シナリオとは?
 
  ・シナリオはモノとヒトの関係を表すことができる
 
  ・仕様書にはモノのことしか書いてない
 
  ・シナリオは日本語が読めれば分かる
 
  ・仕様書は専門家が見ないと分からない
 
  ・シナリオを介せばエンジニアとデザイナーが互いにコミュニケーションできる
 
 
 ◇構造化シナリオについて
 
  ・シナリオを階層化していることがポイント。
 
  ・バリューシナリオ(ユーザの価値 / なぜ?)
   →バリューシナリオ:新規性・魅力がポイント
   →ユーザ・ビジネスにとっての価値
   →ユーザにとっての本質的欲求がビジネス提供者の提供方針がベースになる
 
  ・アクティビティシナリオ(ユーザの行動 / 何を?)
   →バリューシナリオの1シーン
   →ユーザの活動の全体が分かるように描く
   →ペルソナはこの段階ではっきりしている必要がある
   →有用性・便利さがポイント
 
  ・インタラクションシナリオ(ユーザの操作 / どうやって?)
   →効率・全体としての使いやすさがポイント
   →アクティビティシナリオの1タスク
   →具体的なモノ、その使い方を書いていく。
 
  アクティビティシナリオとインタラクションシナリオの違いについて。アクティビティは人の行動なのでモノははっきりしていない。逆に、インタラクションはモノがはっきりしている。例えば、朝気持ちよく起きるのはアクティビティで、それを照明器具でやるというのがインタラクション。
 
 
 ◇シナリオの評価方法
 
  ・ユーザの側面からの評価方法(代表的なもの)
   →魅力性・新規性・有効性・効率性。
   →魅力と新規は満足度に関係する
   →有効と効率は便利さに関係する
   →どれを評価するのかはプロジェクトの段階で変わる。例えばバリューの段階なら効率性より魅力性や新規性を見る。
 
  ・ビジネスの側面からの評価方法
   →戦略性・事業性・市場性・実現可能性・社会性
   →例えば、最初のバリューの段階で戦略を評価し、アクティビティで市場性を見て、操作で実現可能性を見る
   →3年後の話を考える時に操作性の話をするのは違う
 
 
 
◆エクスペリエンスビジョン・情報デザインに関して出てきた話
 
 ◇問題解決と提案
 
  ・問題解決のプロジェクトは必要だけど、それだけじゃダメ
 
  ・新しいものやこれまでなかったものを考えるためにはユーザの本質に立ち返って、エンジニアからユーザに提案することが必要
 
  ・ただ提案するだけではなくて、ユーザの立場から提案することが重要
 
  ・ユーザの価値に基づいてビジョンを考えると新しいものが見える
 
 
 ◇企画提案書について
 
  ・技術・実現可能性がポイント
 
  ・総合的なビジネス企画を立案する
 
  ・製品やサービスに対するユーザ要求仕様をまとめる
 
  ・ユーザ視点から見た仕様の根拠を書く
 
  ・うれしい体験 - 「HCDから見たポイント」「差別化・新規性・魅力」を書く
 
 
 ◇本質的な価値の見つけ方
 
  ・本質的な価値を見つけるのは難しい
 
  ・バリューシナリオを作って共感度を見ていくのがよい方法だと思っている
 
  ・シナリオ作りならお金がかからないので、そこを評価して価値を見つけていけばいい
 
  ・何もないところからブレストしても仕方がない
 
  ・砂金取りと同じで数を打たないと駄目。
 
  ・新しいものはどこにあるかわからないので、広くユーザにアプローチすることが大事
 
  ・そのためにはできるだけ簡単な形で聞く方がよい
 
  ・シナリオは完全なプロトタイプよりも量が作れる
 
  ・シナリオなら「こんなものも?」という、プロトタイプでは(費用と優先順位的の兼ね合いで)試せないようなものについても調査ができる
 
 
 
◆もう少し周辺の話
 
 ◇ゲームチェンジについて
 
  ・同じ土俵で戦うと安くて効率のよいところには勝てないというのがある
 
  ・そういうとき、欧米ではゲームチェンジを使う
 
  ・アメリカは自分達でルールをどんどん作っている
 
  ・改良だけで日本がやっていくのは今後難しいのではないか
 
  ・目の前の問題を解決するのではなくて、ユーザに本当に必要なものを長い目で見て戦略を立てることが大切なのではないか
 
  「新しい目覚まし時計をデザインして?」と言われると、既知の固定された記憶の中でデザインしてしまう。そうではなく「朝、気持ちよく起きることができる体験をデザインして?」とすると、1つ上のレベルで考えることができ、もっと自由な提案ができる。チェンジゲームというのはそういうこと。
 
 
 ◇スケッチとプロトタイプの違い
 
  ・散策的にアイデアを作るのがスケッチ
 
  ・検証的なものがプロトタイプ
 
 
 ◇新しいサービスの確かめ方
 
  ・イベントを1回だけやる。ユーザにとってうれしいかどうかはそれだけで判断できる
 
 
 ◇アクティングアウトの使い方
 
  ・いろいろある。実際に設計者が使ってみるとか。
 
 
 ◇クイック&ダーティ
 
  ・クイック&ダーティに実験することがすごく大事
 
 
 ◇構造化シナリオはウォーターフォールっぽくない
 
  ・アジャイルとシナリオは近い
 
  ・どこまで深くやるか?という違いだけの話。
 
  ・アジャイルはソフトウェアまで作るが、(エクスペリエンスビジョンでは)クイックにシナリオ・プロトタイプを作って済ませる
 
  ・クイックに作るのが大事
 
 
 ◇心配していること
 
  googleが自動運転の車を街で走らせ、実証的に走り方をプロトタイピングしている。日本は法律上そういうことが絶対にできないと言われている。iRobotもろうそくが倒れたら火事になるからできなかった。そういう日本人の潔癖さが、機会を遠ざけていることを心配している。 
 
 
 ◇異文化
 
  アメリカでは、新しい発想をするためには異文化の人がいないという認識をする人が多い。技術者・マーケティングの人・デザイナー …そういう人が混ざることで新しいものができるという発想が大事だと思う。 
 
 
 
 
 
山崎和彦様, DevLove様, ありがとうございました。

 
 

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